第185回  < 公募投資信託化する海外ヘッジファンド >

本コラムでも何度か触れてきましたが、ヘッジファンドと伝統的資産の垣根が徐々に低くなっている中、ヘッジファンド業界でも様々な試みがみられるようになって来ました。

実際に投資信託を購入している投資家層の中心は、働き盛りを終えて退職を迎える世代です。その世代が投資信託に期待する役割や特徴を考えてみると、(1)金融危機時にも左右されない安定した収益源となること、(2)既存の株式との相関が低く、既に保有しているであろうそれら資産のヘッジとして働くこと、(3)価格の変動性が低く平常時にも安定した収益源となること、(4)日次、週次の流動性と価格透明性があること、などの要件が挙げられます。

このようなニーズに応える形で、米国と欧州でそれぞれヘッジファンドを公募投資信託化する流れが強まっているように感じます。上述の投資家ニーズだけでなく、私募中心であったために不正や事件の温床になりやすかったヘッジファンドを規制下に置こうという各国当局の思惑とも重なった部分があり、今後もこの流れは加速するのではないかと考えています。

ヘッジファンドが公募化していくに際して、以下のハードルがあります。ヘッジファンドの仕組み上の特徴の観点からいえば、(1)日次流動性の確保、(2)ポートフォリオや個別銘柄単位での透明性、(3)成功報酬無しの管理報酬のみ、(4)限られたレバレッジと空売り規制への適合等です。それ以外にも、(5)ヘッジファンドに対する調査と選定及びモニタリング、(6)ファンドの入替え時期の見極め、(7)ヘッジファンドを取り巻く業者の選定と見極め、(8)規制当局への対応とガバナンスの確保等が挙げられます。

しかし、仮にこれらのハードルを乗り越えて個人投資家が手軽に投資できるようになったファンドが果たして「ヘッジファンド」といえるかどうかは甚だ疑問となります。現在、米国、欧州を中心に様々な運用会社や金融機関が公募化の流れをいかに捉えるかに工夫を凝らしはじめています。ある運用会社は、流動性のある先物と個別銘柄のみを使いながら、従来のグローバルマクロファンド型のミューチュアルファンドを運用、販売し米国で急成長しています。また、あるファンド・オブ・ファンズは、本コラムでも何度か触れた「マネージド・アカウント」を活用し流動性を高め、あるいは伝統的資産の大手投信会社と組むことで、「ファンド・オブ・ヘッジファンド」を公募投信の形で販売し始めました。

米国では年内に「ヘッジファンド」の募集広告が解禁されます。米証券取引委員会(SEC)にとっては投資家保護の観点から頭の痛いところだとは思いますが、私募投信に対する監視、規制も厳しくはなるものの、個人投資家の観点からは選択肢が広がる側面があります。また、運用会社にとってみれば、多様な選択肢を提供しながら新しい個人投資家の資産を取り込むことのできるビジネスチャンスとなることはほぼ間違いのないものと思われます。日本の公募投資信託市場は2013年6月末時点で約74兆円の資産規模になります。世界で9番目、米国の17分の1の規模に止まる公募投資信託市場(2013年3月末時点)ですが、運用の多様化の波にうまく乗り、金融事業を伸ばすことは、個人金融資産1,500兆円といわれる日本においては数少ない成長分野のひとつになりえるのではないかと考えています。