白木信一郎の「投資運用苦楽」

第351回 < 売掛債権という投資対象 >

売掛債権という言葉は、あまり一般的ではないかもしれません。ただ、簿記や会計の知識がなくても、会社などの売上を現金として回収するまでの間、「売掛金」と呼ばれる資産があるのはご存知かと思います。2000年前後に調査した欧米のヘッジファンドでは、売掛金に代表される売掛債権への投資を行う投資戦略が多くみられました。不良債権投資とは異なり、比較的回収期間の短い、デフォルトの可能性も相当に低い債権にもかかわらず、それなりの利回りを期待できるため、当時、多くのヘッジファンドが積極的に投資をしていましたが、投資戦略として採用するファンドが増加し、徐々にレバレッジが高くなった結果、投資案件の供給に対して投資金額が大きくなりすぎたため、リスク・リターンが悪くなった時期もあったと記憶しています。

その後、欧米では、売掛債権のみならず、請求書を担保にした貸付債権等、本来銀行などの金融機関が担っていた中小企業に対する貸付を、様々な形態でファンドが行うようになり、金融危機後のこの10年でダイレクト・レンディング、プライベート・クレジットという名称のファンドがグローバルでは急増しました。数多く存在する中小企業の資金ニーズに、金融危機で傷ついた銀行だけでは応えられなくなった結果、ファンドが投資家資金を背景に、貸付機能を持ち始めたとも言えます。

日本でも、企業が売掛債権を担保にして金融機関の融資を受けたり、売掛債権を証券化したり、ファクタリングという形態で譲渡するなど、従来から資産クラスのひとつとしての認識はありました。しかし、当該アセットクラスに積極的に投資を行うファンドはあまり存在しないようです。これは、日本に、銀行や信用金庫、信用組合といった金融機関が非常に多く存在するため、融資を中心に資金の出し手が多く、売掛債権由来の投資のリターンが低いことも一因と思われます。

コロナ禍の影響で、銀行による貸出残高は前年同月比で7%近く増加しているようです。営業自粛によって、資金繰りが厳しい企業が借入を行うケースや、先行きの不透明感に備えて、手元資金を厚くするために融資を受けるケースが増えているのだと思います。日本の企業は現預金を潤沢に蓄え、事業投資を行わないことが問題であり、金融機関の貸出も伸びなかった時期がありましたが、金融機関が事業性融資を積極的に行う姿勢に転じたこともあり、特にアベノミクスの開始以降、貸出しは徐々に増えていました。コロナ禍という特殊事情はあるものの、中小企業を中心に資金ニーズが、以前に比べると旺盛になっている可能性もあります。

このような環境下、企業としても資金調達の方法を増やしたいというニーズは増えています。比較的手軽な売掛債権担保付融資や、ファクタリング、さらには受発注情報を電子記録債権化して、それを担保として資金を調達する方法など、様々な調達方法が見られるようになりました。資金の出し手も、銀行に限らず、投資家がファンドを通じて行うケースも徐々に見られるようになりました。今後はクラウドファンディングのような手法も増えることと思われます。

オルタナティブ投資の対象資産として、欧米では比較的長期にわたり取り扱われてきた売掛債権をはじめとする融資関連の投資商品は、今後日本でも目にする機会が増えるのではないかと考えています。投資対象の多様化という観点からも、投資家が安心して当該アセットクラスへの投資に取り組めるよう、私たちも研究していきたいと思います。