白木信一郎の「投資運用苦楽」

第352回 < ESG投資における空売りの役割 >

最近、責任投資(Responsible Investment)やESG投資という言葉を聞く機会が増えたように思います。国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment)は、2006年に提唱され、世界の2000近い機関が、その趣旨に賛同して署名しています。日本でも、世界最大の年金である、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、保険会社や金融機関など63の機関が署名し、投資にESGの視点を組み入れることに賛同しています。

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)が企業にとって重要なテーマとなる中、社会に対しての責任を負っている機関投資家や資産運用会社という、組織としての投資家は、投資対象企業の財務内容以外にも、企業のESGへの取り組みを評価して投資を行うことが求められるようになってきました。既にグローバルで70兆円という運用資産が、ESGを考慮した投資に振り向けられているという報告もあります。

そのような状況下、ヘッジファンドの中で、株式の買いと空売りを組み合わせた、いわゆる株式ロングショートファンドでも、ESGへの対応が可能なのでしょうか。最近、私どもも所属している、オルタナティブ投資の業界団体であるAIMAから、「Short Selling and Responsible Investment (空売りと責任投資)」というタイトルの論文が発行されました。

ESG投資は、通常、環境、社会的責任に配慮し、しっかりした企業ガバナンスを備えた会社を選別して、それらの会社の株式を買うものと理解されています。しかし、本論文内では、空売りであっても、ESG投資が可能であると説いています。例えば、CO2(二酸化炭素)の排出の多い会社は、地球温暖化に寄与することで環境にとってマイナスの活動を行っており、ESGの観点から企業価値を損なう可能性の高い企業ということになります。したがって、ファンド運用者は、これらの株式を空売りすることで、ポートフォリオの価値が損なわれることを防ぐことができます。さらに、これらの会社を空売りすることで、会社の株価が下落することは、その企業の市場での調達コストを押し上げる効果があり、このような企業がESGを遵守し、CO2排出を減らすなど方針を変更するか、市場から退場することは、環境全体にとってプラスの影響をもたらすと言えます。

このように、空売りがESG投資の有効な戦略として作用する可能性を本論文は示唆しています。今日時点で、空売りに有効なESG関連のデータや指標を提供している業者は存在しないようです。また、規制当局が、ESG規制に対する空売りの有効性について議論しているという話は聞きません。しかし、投資対象としての株式ロングショート戦略という投資手法が投資家から求められている現在、ESG投資の観点から空売りを評価することも理にかなっていると思われます。オルタナティブ投資戦略に携わる私たちとしても、今後、この分野についての研究と実用化を進めたいと考えています。