第156回 < 日本の投資顧問会社について >

今回のAIJ投資顧問事件を受けて、金融庁が国内投資顧問業者265社を対象にした一斉調査を行ないました。その一次調査の結果が金融庁ホームページに掲載されましたので、その内容を見ながら、国内の投資顧問会社の現状について考えてみたいと思います。

投資一任業務を行う投資顧問会社として、調査対象となった265社のうち、実際に投資運用会社として投資家と一任契約を結んでいたのは229社ということでした。残り36社は、投資運用会社としての登録を行っているものの、実際には一任業務を行わない会社ということになります。また、229社のうち、直接年金基金との一任契約を締結している会社が122社ということになるので、残りの107社については、個人投資家、機関投資家、事業法人、財団あるいは投資信託等のファンドとの一任契約が主体の投資顧問会社であると思われます。

いわゆる企業年金の中で、厚生年金基金は全国にピーク時には2,000基金以上存在していましたが、現在は約600基金となっています。これとは別に、企業年金の枠組みとして確定給付型年金は10,000件以上存在しており、資産額はこの二つをあわせると約70兆円と言われています。金融庁が今回行った調査から見ると、投資顧問会社が年金と締結している一任契約数は全部で5,365件となっています。信託銀行等に全て任せているケースなどもあるので、一概には言えませんが、ひとつの基金が複数の投資顧問会社と一任契約を結ぶことも一般的です。年金基金の中には、100億円にも満たない小さな基金から、1兆円を超える規模の基金まで様々ですが、投資顧問会社の主たるビジネスである一任運用の中核の投資家であることは間違いありません。実際に、今回の金融庁の調査によると、投資一任契約残高の中で、企業年金の占める割合は約23.5%で20兆円を超えています。一方、件数では37%を占める「個人投資家」の運用額に占める割合は、僅か0.1%の1,263億円に過ぎないということです。

公的年金基金は契約数では全体の2.2%と非常に少ないにもかかわらず、金額としては私的年金基金の合計残高を上回り、33兆円以上となっています。このデータからは、限られた大手投資顧問会社数社が大手の公的年金資金を運用する像が浮かび上がります。更に、運用状況のデータを見ていくと、国内の投資顧問会社では、国内私的年金の50億円未満の投資一任契約件数が突出して多いという状況が分かります。言い換えれば、国内の企業年金基金のうち、中小規模の基金が50億円未満の一任契約を小口分散して、複数の投資顧問会社に運用を委託しています。つまり、122社の投資顧問会社のうちの多くが、数の多い中小規模の私的年金基金から小口に分かれた資金の受託を行なう姿が、データから浮き彫りになります。

データの中で少しわかりにくいのが、投資顧問会社が一任契約を結ぶ「海外顧客」についてです。海外顧客のうち「海外年金」は残高のうち6.9%に限られ、93.1%は「その他法人」に分類されています。これは、国内投資顧問会社が海外の会社の資金を運用しているわけではなく、海外籍のファンドの資金を受託しているというのが実態であると思われます。これらの海外籍ファンドは、一般的に「ケイマン籍」、「ルクセンブルグ籍」、「アイルランド籍」等の海外投資信託の設立に使われる地域であり、これらの海外ファンドに対して投資しているのは、実際、年金基金を含む国内投資家であると考えられます。そのため、今回の調査における、国内顧客と海外顧客では、運用資産が二重計上されている可能性も考えられます。

私どもが、国内のヘッジファンド運用者、つまり小規模の投資顧問会社の一部を調査し、彼らが運用するファンドを投資対象として選定する過程で、国内の相当数の運用会社を訪問します。所謂、独立系投資顧問会社で、株式のロングショート戦略等に代表される絶対収益型の運用を行うこれらの会社の大多数は規模も小さく、投資家のために、自らのためにいかに効率よくファンドのリターンを上げるかに集中しています。運用スキルの高い運用者が、制約の多い大手投資顧問会社を離れて、運用に専念する環境を自ら作り上げてきたケースがほとんどです。これらの小規模の投資顧問会社の投資家としては、今回の調査からも分かるとおり、国内においては私的年金基金が中心となっていました。

今回、AIJ投資顧問事件で明らかになった事実として、国内年金基金の窮状があります。国内の人口動態に大きな改善が見込まれない中、また、運用環境が大きく好転しない中では、確定給付型の企業年金基金は制度として行き詰る可能性があります。そのような中、これらの年金基金に頼ったビジネスモデルを展開している小規模投資顧問会社も厳しい状況が予想されます。そのためには、継続的に良好なリターンを出すことは勿論、統合による規模のメリットの追求、海外の年金基金や財団などの機関投資家や、個人投資家などの、これまでとは異なる投資家層の取込みなどの、従来からのモデルとは非連続の成長が必要となる可能性が高まっています。私どもも、投資家の皆様に継続的に安定したサービスをご提供するために、周囲の環境に対応できる体制作りを心がけていく必要を感じています。