第361回 < 最近の株式公開買付け(TOB)について >

最近、TOBに関する記事を多く見かけるようになった気がします。コロナ禍によって、一時的に若干ペースが落ちていたとはいえ、事業承継や大会社の子会社統廃合に関わる買収・合併が、この数年活発に行われるようになっていることが背景にあります。

株式公開買付は、企業買収などの手段として用いられますが、対象となる株式を一定期間のうちに一定価格で買い取ることを公告して取得する方法を指します。自社株買いを通じて、MBO(マネジメント・バイアウト)を行う際の手法として用いられることも多いのですが、最近は、第三者による対象企業の経営権取得目的や、親会社などによる上場子会社統合目的での活用をよく目にします。

2004年から2005年にかけて、国内中小型株式が強烈に買われた時期がありましたが、その頃、ライブドアや村上ファンド、あるいはスティールパートナーズによる敵対的企業買収が仕掛けられた時期、TOBという言葉の持つイメージが悪くなったと思われますが、近年では、用語としても一般的に定着してきたように思います。

しかし、案件数が増えていることで、足下のTOBにも、敵対的なケースと、友好的なケースの双方が見られるようになりました。この場合の、敵対と友好の定義は、単純に現経営陣(取締役会)がTOBに反対するか賛成するかの違いとなります。したがって、現経営陣が既存の少数株主にとって、会社の企業価値を最大化していない場合、既存株主にとっては必ずしも敵対と友好の定義が同じにならないと言えます。

例えば、昨年実施された、外食大手のコロワイドによる、大戸屋ホールディングスの買収は、当時の経営陣の刷新などを求めたコロワイドのTOBに対して、会社側(取締役会)が反対したため、敵対的TOBと定義されます。一方、既存の親会社である、伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社化する際にもTOBが実施され、こちらは現経営陣の賛成のもと、友好的に実施されました。現時点では大戸屋は上場維持する一方、ファミリーマートは上場廃止となっています。

このように見ていくと、既存の少数株主にとっては、TOBについて、敵対的か友好的という二面的な定義はあまり意味を持たないように見えます。昨年末に実施された、ニトリホールディングスによる、島忠へのTOBは、当初先行していたDCMによるTOBとの競争的買収の過程で、当初のDCMによるTOB価格を30%以上上回り、既存投資家にとってもメリットのある結果となりました。本件は、島忠の経営陣がニトリの買収に賛成したことから、友好的TOBとはなりましたが、競争的な要素があったことから、既存株主にとってもプラスになりました。一方、競争の働かない友好的TOBは、買収価格の設定が必ずしも、正しい企業価値を反映していない可能性を孕んでいます。

今後ますます増えるであろう、企業買収、その手段として用いられるTOBについて、今後も注視していきたいと考えています。