白木信一郎の「投資運用苦楽」

第368回 < 日銀金融システムレポート2021年4月号を読んで >

いつものように、定期的に日本銀行から公表される金融システムレポートの最新号について、触れてみたいと思います。今回のレポートでは、コロナ後の前2回(2020年4月号と2020年10月号)のレポートと比較して、全体的に楽観的なトーンとなっているように見受けられました。レポートは、金融機関の財務基盤の強化と政府・日銀による大規模な財政・金融政策の発動、および規制・監督面の柔軟な対応によって、コロナ禍が金融市場に与えた影響は軽微である、と結論しています。その根拠として、金融市場における投資家センチメントの改善、株式市場や新興国への資金流入の拡大をあげています。

レポートでは、日銀の平均的な⾒通しに沿って景気が緩やかに回復していく場合、日本の⾦融システムは安定性が維持されるとしています。リーマンショック時と⽐べ、⾦融機関が⾃⼰資本の積み増し等を通じて頑健性を⾼め、企業が全体として良好な財務 基盤を維持してきたもとで、各種の企業⾦融⽀援策が強⼒な効果を発揮しており、仮に感染症が再拡⼤し、追加的な負のショックが内外の実体経済に加わった場合でも、⾦融システムは頑健性を保持し、円滑な⾦融仲介機能が維持されることが⾒込まれる、としており、個別のリスクは挙げているものの、金融システムの安定性には相応の自信があることが伺えます。

一方、レポートの中では、注意すべきリスクとして、以下の3点を挙げています。【1】国内外の景気回復の遅れに伴う、信用リスクの上昇、【2】金融市場の変動率上昇による金融機関の有価証券投資関連損益の悪化、【3】外貨資金市場のタイト化に伴う外貨資金調達の不安定化です。

信用リスクの上昇については、国内では、コロナ禍の前から過熱感がみられていた不動産市場、M&A関連のレバレッジの大きな与信先について、今後の収益動向の悪化に伴うリスク顕在化を見ています。また、海外貸出について、エネルギー、空運関連の与信についてのリスクが強調されていました。

また、金融機関が保有残高を引き上げてきた、内外クレジット商品、投資信託などが、市場の変動率の高まりによってリスク要因になることが指摘されています。今回、これまでのレポートよりも、「投資ファンド」が市場の変動率を助長する可能性について、特にページを割いていました。これは、本レポートの公表前に報道されたアルケゴス・キャピタルによる投資銀行の巨額損失や株式市場の混乱を念頭においての記載のようにも感じられました。

最後の外貨調達の不安定化については、邦銀の海外業務における収益性の課題とあわせて、これまでのレポートでも繰り返し指摘されている点になります。そのほか、長引く低金利による金融機関の収益悪化が、金融仲介機能の停滞を引き起こすリスクや、金融機関が利回り追求を優先して、高リスク金融商品への投資を増加させるリスクについて言及しています。

このように、今回のレポートでは、基本シナリオとして、コロナ後の世界経済の持ち直しが継続し、企業収益の回復期待が続くことで、金融システムは安定するというものです。しかし、運用者と話している中では、足下の株式市場については先行き懐疑的な見方も少なくないように感じます。短期的には、セル・イン・メイ(5月の売り)を意識している向きもあり、本レポートでもリスクとして挙げられている金融市場の脆弱性が顕在化する可能性も意識しておく必要はありそうです。