第375回 < 東京証券取引所の再編について >

2022年4月に予定されている東京証券取引所の再編を控えて、上場企業の間で様々な動きが出ているようです。再編は、現在の東証市場第1部、第2部、新興企業向けのJASDAQ市場、マザーズ市場の合計4つの市場区分を、「流動性およびガバナンス水準の高い企業」とされる「プライム市場」、「一定の流動性と基本的なガバナンス水準を備える企業」とされる「スタンダード市場」、そして、「高い成長性を目指す一方、相対的にリスクが高い企業」とされる「グロース市場」の3つの区分へと組み替えることによって行われます。

「日本を代表する」プライム市場を目指す、現在東証1部に上場している一部の企業にとって、大きな課題となるのが、「流通市場株式の時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上」をクリアすることのようです。本条件をクリアするためには、安定大株主が保有する持ち合い株式の解消や、自社株の消却、自社株買いなどを行うことが効果的と思われます。大企業を親会社に持つ上場子会社などでは、株式による親子関係の解消を迫られますが、一部の企業では親会社の保有する株式の買取りや、市中での消化を困難と判断し、上場廃止を選択する可能性もあります。

日本取引所グループは、今回の市場区分見直しについて、様々な議論を経たうえで、【1】各市場区分のコンセプトを明確にし、投資家の利便性を向上させることと、【2】上場廃止基準の明確化等を通じて上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けを与えることを狙いと定めました(2021年7月5日更新の同社ホームページより)。さらに、プライム市場に区分される会社に対しては、コーポレートガバナンスについてこれまで以上の高い水準を求めた改訂を実施しています。その内容には、SDGsの観点、少数株主利益の保護、内部監査部門の充実、社外取締役の増強などが盛り込まれています。

今回の東証再編は、日本の金融業界にとっては大きなビジネスチャンスとなると考えています。世界中で膨張する投資資金が、経済成長余力の高い日本以外のアジアに向く中で、アジアにおける金融のハブとしての存在感を再び持つためには、相応の時価総額、取引量のある日本を代表する企業群の魅力を世界の投資家に知らしめる必要があります。また、それなりの規模の企業群が、非上場化という選択を行うことで、存在感を増しているプライベートエクイティのプレイヤーや投資家の注目を集めることが可能になると考えています。

もちろん、イノベーションを武器に急成長を遂げる新興企業が増え、プライム市場への上場を実現することも必要ですが、上場企業群の中での淘汰、選択と集中は不可欠だと思われます。今回の東証再編の行方と、そのプロセスにおける投資家の反応について引き続き注目していきたいと思います。