SWIFTが送金を支え、SWIFTが資金の息の根を止める?

私の住む浅草も、3月の半ばになると、2月からの積算温度が600度を超えると咲くのと同じように、桜が咲くのは今か、今かと、待ち望む人の来訪も増えてきて、この間たまたま平日の昼間に伝法院通りを歩いていたら、平日の昼間なのに、あちこちのお店の前に若い人たち(ええ、ぴちぴちの51歳なので私からみると大抵の人がこのカテゴリーに入りますから。。。)が行列を作っているので、本当に皆さん、お仕事はいいんでしょうか、と思わず日本の将来を憂えてしまいましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。私はといえば、多分もうすぐプレスリリースする予定の弊社セカンダリー戦略3号ファンドの設定と、並行したあれこれの投資案件に、社内のシステム導入プロジェクト、と正直仕事をしたくなくなるくらいの仕事が列をなしてくれているので、会社にいると会議で仕事にならず、引きこもって仕事を片付けることに専念しておりますが何か。

この列はなに待ち?

地震とLineとインターネットと

さて、これを書いている前の日の晩に久しぶりに都内でも震度4、東北地方でも震度6の地震がありましたが、皆さんは大丈夫でしたでしょうか。都内も結構停電だったという話もあり、知人宅もちょこちょこ停電だった、という話を聞き、福島にいる親族からは初期微動で十分揺れたので家の外に出たら、主要動の時に家の中にいたら多分やばかった、というくらい家の中がすごいことになった、という話を聞くと、11年前の地震の時に、私の第二の故郷のジャージー島におりましたので当時の体験のない人間でずっと過ごしてきた私的にはやっと皆さんと共有できる体験を得たような気分になっていました。なので、Lineって例の11年前に携帯電話が繋がらない時に公衆電話にみんなが並んだのを見てサービス提供を考えて、その行列 = Lineからサービス名を決めたって話だようなぁ、と思いながら、ついぞ時間を気にせずあちこちに「大丈夫?」って Lineでメッセージを打ちまくっていましたが、その時になんとなくネットのデータ回線が重くなったなぁ、と思ったので、深夜だったこともあり、安否確認を携帯電話ではなくLineなどのメッセンジャーに置き換わった都合でこうなったか、なんて、これまた本質と違うことが頭をかすめたり。

さて、そんな通称ネット、いわゆるインターネット、は世界中のコンピュータからスマホ、最近ではテレビにエアコン、防犯カメラにボタンを押すロボットまでがつながっている、地球規模につながったデータ通信網の結合体な訳ですが、そこにはあらゆるフォーマットと手順に基づいてありとあらゆる情報があちこちひっきりなしに流れています。元が、DARPAという米国の国防高等研究計画局 (Defense Advanced Research Project Agency)が開発したデータ通信の物理的インフラとかデータ送受信の手順とか、そういう諸々を民間に公開して、国内外にあるネットワーク網を繋いでみた結果、出来上がったのがインターネット、って訳です。とすると、世に言う、「繋がっているものならば」誰でもどこでも何にでも、繋がってアクセスができることになっていますし、その情報というと、あるアプリならば解釈できるけれど他のアプリで解釈しようとすると全く意味の通じない情報の塊になっている、下手をすれば、たまにいまだに起きる、メールを開けたら文字化けで全く読めないので「さっきの手紙のご用事なあに」、って歌って聞かねばならないことになるのです。それならまだいい方で、最近のウェブサイトのURLが https:// になったことで、サーバーとウェブサイトを見るブラウザーの間のやりとりが暗号化されましたが、それがない時分には、テキスト情報がテキストのまま流れていましたので、その情報を見たら「トラトラトラ」の伝文が実はバレバレだった1941年の日本のように、ウェブサイトからあなたがダウンロードしている情報が、その内容が恥ずかしいものであってもクレジットカードの番号であっても、誰かに見られたら、あっという間にバレバレになってしまう、というなかなか凄い時代だったのです。

送金ほど機密性と正確性を求められるものはない。だから。。。

とすると、恥ずかしいものを見ていたなら個人の風評被害「程度」の直接的な経済的なダメージが見えづらい形ですみます(まぁ、それはそれで社会的地位が脅かされたり、たまたま入ったスパムメールに釣られてビットコインで思わず支払いたくなる衝動に駆られる、といういろいろ厄介な問題はあります)が、クレジットカードのような情報ですと複製されて利用されることで直接あなたの銀行口座(か、クレジットカードの保険会社の補償額)にすぐに影響が出る問題になりますので、やっぱりインターネットのような公衆回線というのは、国道沿いのバス停で、バス待ちの誰かが信号待ちのあなたの車の中の出来事を一部始終見ているかもしれないと同じくらい、誰が見ているかわからない状態なので、そういう情報は車に(警察だと後部座席だけね、とまだ許容しているか分からない)目隠しのスクリーンを張って車の中が見えないようにするのと同じように、やり取りするデータが見えない封筒に入れるが如く暗号化を掛けたくなるのです。もしそれが送金情報のようなより直接的なものになると、そもそも公衆回線を通すこと自体リスクなので信頼できる参加者だけの閉じたネットワークでやりとりをした方がどう見ても安全、と思えます。

そうやって出来た「送金情報のやり取りをするためのネットワーク」として構築されたのが SWIFT – Society of Worldwide Interbank Financial Telecommunication なのですが、さらに発祥に戻ると、証券の集中決済を手掛けていた当時セデル(今でいう、ClearStream)とユーロクリアと、今や現存する国際決済機関の二社が立ち上げた事業ですので、「証券」の決済という「もの」と金の交換のうち、お金の移動についての解決方法を作ろうとしたのでしょう。ただ、お金については銀行がそのものを管理するため、その資金移動の情報のやり取りに特化した形になった、といえます。

送金って実はこんな仕掛け

と言うのも、前回にも紹介したSWIFTの解説でも書いたのですが、送金というのは今やアカウント間の数値の付け替えになっている(ので、QR決済での個人間の支払い、というのは、その決済業者さんの中での残高の付け替え、でしかなく、銀行みたいに複数の支店があるわけではないから、マシンパワーのある複数台のサーバーでの情報管理の範疇でなんとかなっているのです。)のですが、それを実現するためには付け替える銀行(の本店でも、支店でも、日本なら日銀の当座預金勘定でも、要はどこか)にその裏付けになる資金が必要でした。言い換えれば、裏付けのない数値の付け替えは銀行にとっては、その付け替えによって現金を引き出されることで回収の当てのない(銀行にとってリスクのある)行為なのです。とすると、送金の情報、というのは、例えばA銀行X支店にある私の口座(口座番号:sss)から B銀行Y支店にあるあなたの口座(口座番号:ttt)への 通貨 Pの送金は、

  1.  A銀行とB銀行に対する、A銀行からB銀行への通貨 Pでの資金移動
  2.  B銀行への、Y支店の口座番号 ttt への資金の付け替え

の二つが組み合わさったもの、と考えることが出来ます。 この1番目にはさらに二つの意味があって、一つは通貨Pによってその通貨を発行している国の銀行間ネットワークを使う、という決済方法の指定と、もう一つは、その銀行間ネットワークを通じての決済を行う相手と金額の指定、となるのです。

外国送金がなぜ複雑怪奇なのか、の理由

なぜ、こんな回りくどい言い方をするか、といえば、私たちが多分人生の99%以上行う日本円で日本の銀行間の送金の場合、SWIFTのような大掛かりな仕組みを使うことなく、全銀ネット(か、1件あたり1億円以上だとそこから日銀ネットを経由して)、と呼ばれる国内の送金ルールで片付くのでそもそも使う必要はないのでこんなことに煩わされることはない(ので、送金手数料が高いことでも知られるSWIFTを使った送金にならない)のですが、もし日本の居住者のもつ日本の銀行口座間でユーロの送金をしよう、としたら、送金情報の 2番目にはSWIFTを通じて情報のやり取りはできるかも知れませんが、その裏付けとなる資金の移動については、この全銀ネットを使ってユーロの銀行間の資金移動を行うことは出来ません。ユーロの決済を行うEBAに参加した銀行の間でなければできないのです。

え?ユーロもドルも、国内で行き来してないの?

ん?日本の居住者の口座のある銀行ってユーロ決済をそのまま出来るかって?まず無理です。そこで、日本の銀行はユーロ決済を出来るEBAに参加している銀行に銀行口座を開設して、その残高の一部を送金先の銀行口座に向けてEBAを通じて送金することで、上記のSWIFTの送る情報のうち1番目が実現できることになるのです。そんな現地通貨の決済ネットワークに参加している銀行で自社の口座を開設した先のことをコレスポンデンス銀行、略してコルレスバンク、かたっ苦しい言い方をするなら中継銀行、といいます。そうなると、1番目の情報の後半は、実は自分の銀行のコルレス銀行から送金先(かそのコルレス銀行)への送金、ということになります。

そのため、SWIFTの2番目の情報を受け取った銀行からすれば、1番目の情報によって送金元かそのコルレス銀行で着金確認が出来て初めて2番目の情報に基づく口座への振替(言い換えると残高の額を増やすこと)が出来る、のです。なので、リアルタイムにできる銀行もあれば、そうでもない時もあり、全てが銀行のオペレーション能力に依存している、とも言えるのです。

みんながみんな、すべての通貨のコルレスを持っている訳はなく

ところで、例えば日本のすべての金融機関が、メガからそうでないところまで、みんながみんな、世界中のすべての通貨の決済が出来るように、世界中のあちこちの銀行にコルレス銀行契約をしているでしょうか。取引がそれなりに多い、米ドルやユーロであっても、年に数回程度しか発生しないのに、口座維持費用の掛かるコルレス契約をしてそんないつ起きるかわからない取引に備える、なんてことはしないものです。とすると、国内の大手銀行に外貨口座を開いて、そこを通じて送金したり受領したり、という方がまだ経済的です。そうなると、送金指示が

2. B銀行への、Y支店の口座番号 ttt への資金の付け替え
では足りず、

2.  B銀行への、Y支店の口座番号 ttt のC銀行にある、C銀行の Z支店でもの口座番号 uuu への資金の付け替え

という多層構造になっていくのです。で、この多層構造をして闇、と呼んだ著名作家がいるのですが、その話は私のブログの記事で詳細を書いておりますのでそちらをご覧ください。

SWIFTの中でも情報の暗号化 – 実は手間のかかる仕事

さて、送金の裏付けとなる資金移動自体は通貨のある現地での話、でしたが、情報については、というとSWIFTのネットワークの中で飛び交うから、それなりに自由に飛び交っているのでは、と思われがちです。でも、実は、当然に、過去に送金の情報を送ったり受け取ったりしたことのない金融機関との送金、ということも案外発生するのです。そんな時、銀行の間でどうしているか、というと、お互いの銀行の使う情報の暗号鍵の交換をまず行なって、それからSWIFTのメッセージのやり取りを始める、という手続きが行われます。金融機関しかいないネットワークなのですが、一応そんなことをちゃんとやっているのですが、そのため、初めまして、の取引にはどうしても時間が掛かります。お陰で、以前もとあるファンドを立ち上げる際に、銀行系のアドミさんに、まず「ここの銀行とこの通貨でやり取りをするので、事前にSWIFTの開通を行なっておいてね」という話をする必要があったのです。そんなにエキゾチックな(金融機関では、米ドルとか円、ユーロあたりの主要通貨以外をマイナーと呼んだりエキゾチックと呼んだりします。マイナーならまだしも、エキゾチックって、と思うのですが、オプションでもちょっと稀な参照資産・指数だったりややこしい仕組みを入れるとエキゾチックっていいますので、どうもこの世界では普通なようです。。。)通貨じゃなかったはずなのですが、実際に走り出すと資金移動がタイトなスケジュールで動きますので、事前に露払いをしておかねば、ということでやっていました。実際、それのおかげでSWIFTが飛ばせないので送金できない、なんて話を聞いたことがあるので、この点は案外侮れないところなのです。

SWIFTから締め出すのは?送金できなくするだけなんだけどさ。

とすると、なのです。このところ、経済制裁でSWIFTから締め出そう、って話が出て、実際に7銀行程度SWIFTへの接続が出来ないようになっているらしいのですが、方法として物理的にネットワークへの参加を切り離すか、既に取引のあった銀行がその銀行の秘密鍵を捨ててしまうか、のどちらかでSWIFTのメッセージを送受信できなくする、ということが出来るのですが、この制裁に対していうことを聞かない銀行等がいると秘密鍵を引き続き保有することで、そこを経由して送金が出来てしまいますので物理的な接続を切り離すのが実際だったのでしょう。もちろん、それぞれの通貨のコルレス銀行に行って、コルレス銀行の残高を使って直接送金する、ということだって出来ますので、口座凍結措置もやらないと実効性が薄いことになりますが。。。

まとめ – 銀行の外貨送金って実はかなり複雑だった、でしょ?

ということで、送金って簡単に銀行に行けばできるじゃん、と思われがちですが、このあたりをわかっていないと、前回の説明の通り、ファンドのそもそもの存在意義である、お金を集めて投資先に入れる、という行為そのものが出来ない、のですが、国内はまだしも、海外が絡むと色々と心配事が増え、送金が遅くなればその分投資が遅れるのであちこちで文句が上がって炎上対策が必要になる、というのがお分かりいただけたでしょうか。まぁ、関係者が増えるとその分オペレーションリスク(とそれに関わる人たちへの手数料)が上がるのは当然のこと、なのですけど、今のところ、この問題を劇的に変える方策を世界は持っていないようですので、当面は文句は言えど大人しくこのルールで送金をするほかはないのです。とはいえ、オンラインバンキングの能力が(日本を除く国では)費用対効果の観点でかなり上がっていますので、支店で列を作って送金伝票を持ち込まねばいけなかった10年前よりは確実に便利になっている世界ではあるのですが。。。

お後がよろしいようで。