第413回 < ロンドン出張について >

2023年5月中旬から下旬の2週間、2020年のコロナ禍以降初めて、ロンドン、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコの欧米4都市を周る出張に行きました。1990年代に勤務した銀行時代に業務としてファンド投資を始めて以来、幾度となく海外出張を繰り返してきましたが、今回の欧米への出張は2019年9月以降、3年8ヶ月振りとなりました。このコラムでは特にロンドン訪問についてお話ししたいと思います。

ロンドンへの訪問は、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)がスポンサーとなったロンドン・ビジネス・スクールでのプライベート・キャピタル・シンポジウムへの出席と、JVCAの協会員である日本の著名ベンチャーキャピタル(VC)のパートナーの皆様とロンドン拠点の投資家との面談を行い、日本のVC及びスタートアップの状況について正しい認識と興味を持ってもらうことが目的でした。シンポジウムには、投資家をはじめ実務家が200名以上参加し、VC、プライベートエクイティ(PE)ファンドやプライベート・クレジット等に対する投資について、参加者からのプレゼンテーションやパネルディスカッションが数多く行われました。また、大学ならではの当該アセットクラスに対する学術的な研究結果の発表なども見られました。

ロンドンには数多くの富裕者層が集積しており、最近では特にプライベート・ウェルス・マネジメントが一大産業になっています。今回のシンポジウムの中でも欧州大手の富裕層資金を運用する会社等も参加しました。英国では、10年ほど前からプライベートアセットやスタートアップ企業に対する充実した税制優遇が実施され、投資家層の大幅な拡大がみられました。さらに、英国は、2008年の金融危機以降で急増した欧州全域の富裕層を取り込むことに成功したことで、プライベートアセットに関する様々な情報が集まりやすい状況になっています。

一方、ロンドンに拠点を置く投資家の大半は、日本のベンチャーキャピタルに関する情報を殆ど持っていません。したがって投資対象として検討する素地がないことを今回の訪問であらためて確認することになりました。今回、JVCAとして海外の投資家が集まるシンポジウムや会議に参加して日本のVCやスタートアップがいかに魅力的な投資対象となり得るかについてのPRを行いました。しかしこの取り組みは一朝一夕に効果の出るものではなく、長期的な継続が重要であると痛感しました。実際、近年、海外投資家の取り込みに成功している英国のベンチャーキャピタルでは、英国におけるベンチャーキャピタル協会が、海外投資家に対するPRを10年前から積極化していたことも分かりました。

個人的には4年ぶりの英国訪問になりました。英国におけるコロナ禍前との大きな違いは2020年に実施された「BREXIT(英国の欧州連合離脱)」でしたが、街中を歩いている際には、当時との変化はあまり感じませんでした。しかし、多くの有識者の間では、BREXITが英国経済に与えるダメージが甚大であることを嘆く話も出ていました。もっとも、各国の富裕層がいまだに英国に拠点を置く理由には、経済成長や税率ではなく、英国の歴史や文化にもありそうです。今回の出張から戻り、日本は引き続き英国から学ぶことが多いと感じています。

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