第296回 < 日銀のETF買入れについて >

日本銀行が2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」と2014年10月の拡大によって、マネタリーベースの増加、国債の買入れとともに、ETFとREITの買入れが行われました。ETFについては、当初年間1兆円の買入れが、3兆円になり、現在では6兆円となっています。2018年2月時点の国内ETFの純資産残高が約31兆円なのに対し、日銀のETF保有残高は実に約24兆円となっており、4分の3以上を占めています。また、東証一部の時価総額が足下で約651兆円であり、その3.6%を日銀が保有していることになります。数年すれば、指数を構成する個別株式銘柄の中には、浮動株の大半を日銀が保有するケースも出てくるため、日銀の内外でETFの買入れプログラムの持続性について、疑問視する声も出ているようです。

 

日銀が日本株式を大量に保有することで、以下のように幾つか問題点が指摘されています。

  1. 一方的に大量に株式を買い続ける日銀の存在が、市場の健全な株価形成を歪める。
  2. 浮動株比率の低い銘柄においては継続的に買入れが困難になるケースが想定される。
  3. 日銀が実質最大株主になる企業が出る中、日銀がスチュワードシップコードについての明確な方針を持たなければ、コーポレートガバナンス上の問題が生じる可能性がある。
  4. 日銀のバランスシートの中に変動率の高い株式の割合が増加することで、株価下落によって日銀資産の健全性が著しく損なわれる可能性が高まる。

 

このような問題点を踏まえ、ETF買入れについて、将来的に日銀はどのような対応を行うのでしょうか。国債の買入れと同様、もしくはそれ以上に出口戦略については困難な舵取りが求められるように思えます。国債と異なり、償還のない株式の保有ですので、普通に考えれば、【1】徐々に買入れ額を減額し、【2】現在の保有分を市場で売却していく。というステップを経ることになります。しかし、東証一部の時価総額の4%近くを保有している日銀が市中で株式を売却した場合、その影響は相当大きくなると予想されます。

 

したがって、出口戦略を実行するタイミングの市場環境にも大きく左右されますが、日銀としては、ETF売却時の何らかの受け皿を用意しておきたいと思われます。市場でうわさされているのは、【1】日本最大の投資家である、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)への売却、【2】政府主導の買取機構の設立と当該機構への売却、【3】内部留保のある投資先企業が自社株買いを行うことで日銀保有分を買い取る等の方法です。しかし、どの方法にも課題が多く、実現は相当難しいと感じます。

 

今後、物価目標を達成する中、企業業績の改善が続き、機関投資家、個人投資家による需要が旺盛な状況が実現すれば、日銀の出口戦略は大きな痛みを伴わずに行われる可能性も残されています。しかし、ここまで肥大化した中央銀行による金融緩和の解消には長期間を要すると思われ、その過程で市場が常に好調を維持するとは考えにくいことのように思えます。現在の金融緩和とその解消が将来にどのような影響をもたらすか、想像力を働かせていきたいと思います。