白木信一郎の「投資運用苦楽」

第297回 < 日銀金融システムレポート2018年4月号を読んで >

半年に一度の頻度で日銀から発表される金融システムレポートが今年も419日にリリースされました。内容は、前回201710月に発表された内容(http://www.astmaxam.com/mailmagazine/mail.php?detail=284)と大きく乖離はしていませんが、幾つかの点で異なる印象を受けました。特に、前回のレポートが、過剰流動性の影響を受けて、株価の上昇や金融機関のリスクテイク等についてやや過熱感が出ていることに対する警戒感を表していたのに対し、今回のレポートでは、「株価は、本年初までの上昇ペースがやや急だったが、企業収益の改善見通しに概ね沿った動きとなっている」「国内投資家も不動産価格の高値警戒感から物件取得を慎重化させている」等のコメントに見られるように、過熱感の収まりを示しています。また、金融機関のストレス耐性についてはバラつきがあるとするものの、リーマンショックのような急性ストレスに対する損失吸収力を備えているとの評価をしています。

 特に、2000年初期の状況との相違点として、当時は問題貸出先の延命を目的とした「追い貸し」が融資残高の増加に寄与していたのに対して、最近の融資残高の増加は、金融緩和の長期化と金融機関同士の貸出競争激化を受けて、借入れの金利感応度の高い「ミドルリスク企業」向けの貸付増加によるところが大きいと考察しています。このような変化について、本レポートでは、「企業の生産活動を資金面で下支えし、景気改善に寄与している」と評価しています。

 一方、利益率が低い、あるいは財務レバレッジが既に高いにもかかわらず、財務が健全で高収益の優良企業並みの低金利を享受している「低採算先」に対する残高が増えている状況については、デフォルト(倒産)率が2000年代以降で最低水準まで低下している現状を踏まえて、将来的な問題になりえるとしています。このように、今回のレポートでは、金融機関の課題として、より中長期的な観点でのコメントが目立っています。特に、地域における人口や企業数の減少が恒常化する様を「慢性ストレス」と定義したうえで、将来的な信用リスクの高まり(デフォルト率の上昇)に備える対応の必要性を示しています。

 本レポートは、同時に金融機関における有価証券投資の状況を検証しています。201712月末時点の金融機関における投資信託残高は、過去最高値に達しており、とりわけ地域銀行の保有する投資信託残高は10兆円を超えました。投資信託の中身を見ると、35%が海外金利投信を通じたソブリン債への投資、12%が信用リスクのある海外金利関連投資です。また、17%が公募・私募REITなどを通じた不動産となっています。海外株式が2%なのに対して、ヘッジファンドが10%を占めています。

 レポートが公表された1週間後には、米国長期債利回りが4年ぶりに3%台に達しました。この金利上昇の過程で地域金融機関の海外金利関連投資からは多額の評価損、及び運用損が計上されることになります。地銀の海外金利関連への投資は外債への直接投資が中心ですが、投資信託を通じた投資も海外金利関連投資の2割を占めるようです。

 このような投資信託を通じた分散投資の現状から、レポートでは、「様々なリスクファクターの変動がもたらす影響を横断的に把握し、採算性やリスクの大きさ・相関を踏まえた管理・運用体制の整備をしておく必要がある」とコメントし、また、市場環境の変化がポートフォリオに与える影響の分析と対応方針の策定を促しています。

  現在の市場環境が多くの市場参加者にとって居心地のよいものであることは疑いがありません。しかし、現在の市場を支えている流動性の供給者である政府・中央銀行に支えられている側面が強く、それは、足下の景気刺激的な政策に起因しており、将来からの負債によって成り立っています。また、多くの地銀の有価証券運用は債券偏重であるため、金利上昇局面に弱いという特徴を持ちます。本レポートを読みながら、あらためて、私たち民間企業、金融機関が持続的な収益モデルを成り立たせることで将来の負債に対して早急に備えていかねばらないと感じています。