白木信一郎の「投資運用苦楽」

第310回 < 銀行バランスシートの変化から見る金融機関の苦悩 >

最近、新聞の記事を見ていると、金融機関、特に地銀をはじめとする地域金融機関に対しての厳しい内容が目立ちます。地域金融機関の資産は伝統的に、特に地元企業への貸出と、国債を中心とする国内有価証券がほとんどですから、長期にわたる低金利政策と過当競争から生じる低スプレッドが収益を圧迫するのは当たり前のことです。銀行の資産サイドだけに着目すれば、負のスパイラルから逃れるためには、金利の高い海外貸出や海外債券の割合を増やし、国内ではスプレッドの高いM&Aファイナンス等の新領域での貸付や利回りの高い有価証券投資の割合を増やすくらいしか手段は考えられません。

地銀はもともと銀行にとっての負債である預金の歩留まり率が高いために、比較的年限の長い国債を保有する傾向にあります。そこに長引く低金利の影響から、数年前から利回りが少しでも高い20年以上の超長期国債を組入れるところも出始めました。一方、足下の金融政策の影響からこれ以上マイナス金利の国債を組み入れることができなくなり、地銀の国債保有額は減少の一途を辿っています。例えば、平成27年度初から29年度末の3年間だけで地銀全体で年平均5兆円超、合計15兆円もの保有国債の減少が見られました。この結果、国内の銀行が保有している国債の銀行資産に占める割合はこの5年で27.1%から19.5%に減少しました。地銀でみるとこの割合は28.1%から22.1%と若干少ないものの、大幅な減少となります。(全国銀行協会各種統計資料より)

国債の減少は、満期を迎える国債の償還と売却の組合わせですが、地銀は前述のように超長期の国債の組入れを並行して行ってきたことから、地銀の保有する国債ポートフォリオは、満期までの残存期間が長期化する傾向にありました。また、国債が減少した分は、収益を生まない預金性資産へと振り代わり、同じ5年間で地銀の預金性資産は、6.0%から12.1%へと上昇しています。地銀は失った収益を補うために、住宅ローンや比較的利回りの高い不動産関連融資を増強しました。実際、貸出残高は金額としては上昇しましたが、バランスシート全体の拡張に伴い、保有資産全体における貸出残高の割合は、この5年間でほぼ横ばいとなっています。

メガバンクであれば保有国債の減少分を収益率の高い海外貸付や利回りの高い海外有価証券などの海外資産などにシフトさせるというオプションがあります。実際、三菱UFJ銀行の開示資料を見てみると、2018年3月末時点での貸出金全体に占める海外貸出の割合が40%を超え、保有有価証券全体に占める外国債券の割合も3割を超えており、海外で稼ぐ力を強めていることが伺えます。しかし、大半の地域金融機関ではメガバンクのような鮮明な海外シフトは、資本力や人材の面で難しいと思われます。

最近、ある新聞記事で、地銀の国債ポートフォリオにおける残存期間が長い長期債の割合が都市銀行のそれの3倍となったと伝え、日銀の緩和終了時の金利感応度リスクを示唆していました。これは、前述の状況、つまり国債ポートフォリオの割合が銀行全体で大幅に縮小する中で、超長期債を含む収益の見込める債券割合を増やさざる得なかった地銀と、海外貸出や外国有価証券等の別資産を増やした都市銀行(メガバンク)の差ともいえます。銀行のバランスシートの変化を見ていると、長引くゼロ金利政策をはじめとする厳しいマクロ環境の中、限られた選択肢の中で動く金融機関の苦悩が見て取れるような気がします。

あけぼの投資顧問株式会社 CEO兼CIO

ロンドン・ビジネススクール卒
1990年代はじめから債券投資、運用業務を経てヘッジファンド及びプライベートエクイティファンド等のオルタナティブ資産への投資を担当。ヘッジファンドの投資戦略に詳しく、セミナー、コンファレンス等において講師もつとめる。
AIMA(オルタナティブ・インベストメント・マネジメント・アソシエーション)日本の副会長。

著書:
[完全版]投資ファンドのすべて(2014)」金融財政事情研究会)
投資ファンドのすべて(2006)」(金融財政事情研究会)