第316回 < 恩師を訪ねて >

先日出張で訪れた英国での空き時間を利用して、小学校時代の恩師を訪ねました。先生は日本の小学校の教諭を定年まで勤められた後、高校と大学で数学の教師を歴任され、その後、請われてロンドン近郊にある日本人向けの高校で校長先生をされていました。驚くのは、80歳を越えて、はじめての海外での生活をご経験されているということです。

ロンドン郊外のマナーハウスを改築したという広大なグラウンドや寄宿舎のある校舎内で、先生とゆっくりとお話をする機会に恵まれました。先生のご家族は、ご両親、ご兄弟皆様が教員という家系で、奥様も小学校の先生をやっていらしたという筋金入りの教員一家ということは、今回はじめて知りました。教えることが大好きで、教師を続けられるのであれば場所は問わない、初めての海外生活ということも気にはならない、というお話を聞いて、好きなことを続けられることの素晴らしさを感じました。

何十年ぶりかの再会でしたが、話しているうちに当時のことを次々に思い出すことができました。先生とは、小学校時代に所属していた「数学研究会」というクラブの担当をしていただいていたご縁でしたが、ご一緒させていただいた期間は短かったにもかかわらず、当時の思い出はとても鮮明に残っています。当時、目新しかったパーソナル・コンピューターを導入し、基礎的なプログラム言語であるベーシックを最初に学ぶことが出来たのは先生のご指導のおかげでした。また、学校の学習発表会では2進法のプレゼンテーションをする等、子供の頃にコンピューターに親しむ最高のきっかけをいただいたと思います。夏休みには、ゲームをしたい一心もあったと思いますが、大学で当時導入されたばかりのZ80のアセンブラを勉強しに行ったのも良い思い出です。

今回、お元気に活躍されている先生のお姿を拝見ができたことは、すばらしい刺激になりました。いつまでも好きなことを続けるために努力を怠らない姿勢、先生をご心配されて日本での仕事を切り上げてご一緒に初めての海外生活を経験されている奥様と謙虚にお互いを気遣う優しさや、当時の教え子達が入れ替わり立ち寄ることからわかる人から慕われるお人柄等、とても自分には真似できないことばかりですが、温かく、うれしい気持ちになる再会でした。

今回は、ロンドンにしては珍しく雪の降る中での再会となりましたが、次は、美しいイギリスの庭園風景を見ながらの再訪を誓って帰途につきました。忙しい出張の合間の束の間の休息を、このような形で得ることができたのはとてもありがたいことでした。