白木信一郎の「投資運用苦楽」

第235回 <  今回の市場ボラティリティの急上昇  >

8月25日の米国株式市場は、前週の下落からの反発が期待されましたが、引けてみると続落し、S&P500指数は1週間で11%以上下落しました。直近ピークの5月21日終値と比較すれば、12.35%の下落です。日本株は、8月11日の終値と比較して、8月25日までに14%以上下落しました。今回の株式市場の急落を短期的な調整ととらえるのか、中長期にわたる株式市場低迷の前兆ととらえるのかの判断は難しいと思います。リーマンショック以降では、2011年8月と2013年5月に、それぞれ理由は異なりましたが、株式市場の調整とそれに伴う、市場ボラティリティの上昇が見られましたが、比較的短期で切り返しました。

今回のボラティリティ上昇の直接のきっかけは、中国で発表された製造業購買担当者景気指数(PMI)の速報値が6年半ぶりの低水準となり、懸念されていた中国経済の減速が目に見える形で伝わったことと、そこから連想される世界経済への不安と言われています。中国経済の減速懸念については、これまでも頻繁に取り上げられてきた材料ですので、説得力に欠ける内容です。少し乱暴に言えば、市場関係者にとっては、今回の調整を迎える材料は何でもよかったのではないかと思います。米国の金利引き上げを控えて、市場参加者が現在の株価をはじめとする資産価格の水準に神経質になっていたところ、2年周期程度で見られる、買い疲れ等の心理的な要因が重なっただけのことかもしれません。

しかし、これまでも繰り返し述べてきたように、かつてないほどの規模に達している過剰流動性相場において、超低金利に支えられた資産価値の上昇が進んでいます。その中で、今回米国が利上げを行う目的の一つは、金融政策の正常化です。かつてのように、インフレを抑えるためでもなく、通貨防衛が理由でもありません。今のままの金融政策を続ければ、将来、景気が再度悪化した際に、金融サイドから打つ手は通貨政策を残して、ほとんどなくなります。また、2%程度の経済成長と雇用の正常化という条件を満たした現在、本来、FEDの立場から超低金利政策を続け、過剰流動性相場によって資産価値を膨らませ続ける理由は少ないはずです。ただし、ここには先進国共通のジレンマが存在します。
世界的な低成長経済において、デフレバイアスのかかりやすい状況下、巨大な財政赤字を抱える政府は、実質負債が無制限に膨らんでゆくデフレ状態を許容できず、少なくとも緩やかなインフレと財政黒字に近付くための基礎収支の改善、つまり歳出削減と税収増を両立しなければいけません。現在米国と日本で実施されているインフレーション・ターゲット政策となりふり構わない景気浮揚政策は、デフレを避けるための政策ミックスといえます。しかし、流動性の罠に陥り、金融政策が無効になれば、民間経済に対する短期的な景気刺激策の重要な手段が一つ減ります。一方、十分に景気が改善し、財政健全化が見込めるほどの税収が確保できる前に引締めを行ってしまえば、政策目標が実現できずに本末転倒です。

そうこうしている間に、政府債務が許容範囲を超えてしまうタイムリミットが近付いています。日本の国債買い入れは、あと5年程度で限界を迎えると思われます。アメリカの基礎収支は改善してきていますが、未だに政府債務残高は対GDP比で100%を超えています(日本は240%を超えていますが)。今回の株式市場の調整は、日米欧の先進国が内包する本質的な問題をグローバルで考えた場合、中国をはじめとする新興国の経済成長が世界経済を支えるという漠然とした市場参加者の期待感が崩れ始めたことによって起こったと考えられます。また、過剰流動性からくるレバレッジの増加が進んだことで、市場ボラティリティは上昇しやすい環境となっています。
上述のような状況を考えると、今回のような調整はいつ起きても不思議ではなく、市場の振幅が今後拡大することも考えられます。特に、グローバル経済がかつてないほど繋がっている現在、材料には事欠かない環境です。2013年5月のコラムでも書いたように、このような環境下ではディフェンシブなポートフォリオを維持し、拙速な投資判断は慎もうと考えています。