白木信一郎の「投資運用苦楽」

第347回 < 日銀金融システムレポート2020年4月号を読んで >

半年に一度、日銀から公表される本レポートは、今回、コロナ禍が本格的に市場に影響を与え、株式市場が大きく落ち込んだ20203月末までの市場環境を基準に書かれています。本レポートでは、コロナの問題によって、金融システムが強いストレスを受けているとしつつも、金融機関が流動性、資本の両面で強いストレス耐性を備えていること、政府と日銀が政策対応を行っていること、そして、企業全体の財務体質が健全であることの3点を理由として、金融市場は現時点で健全性を維持していると論じています。

確かに、レポートのリリースされた4月以降、株式市場は不思議なほど堅調に推移しており、日経平均株価はほぼ昨年末の水準まで戻ってきています。これは、各国中央銀行の無制限とも思える資金供給に支えられた面が大きいと思いますが、休業者の急増や小売り、消費、製造業などの経済指標の大幅な落ち込みを見ていると、景況感と市場環境の乖離に違和感を覚えます。本レポートの中でも、実体経済と金融の相乗的な悪化のリスクを指摘しており、以下、そのリスクを要約してみます。

第⼀に、国内外の景気悪化に伴う信⽤コストの上昇を挙げています。コロナ禍により、実体経済の悪化が続くと、資金繰り逼迫が信用力の問題につながる可能性を指摘しています。 国内金融機関は、低金利下で、ミドルリスク企業向け貸出や、不動産賃貸業向け貸出、大型M&A関連など⾼レバレッジ案件向けの貸出を、海外では エネルギー関連を含む相対的に信用力の低い企業への貸出を積み増してきました。景気悪化に対して弱いこれらの貸出しの問題債権化のリスクは高いと思われます。第二に、金融市場における価格調整が金融機関の有価証券投資収益を圧迫するリスクです。特に、金融機関が保有している投資適格級の中でも信用度の低いトリプルB格の債券等の価格が大幅下落した場合、金融機関の損失につながる可能性も考えられます。第三は、ドルを中心とする外貨資金市場がひっ迫することで国内金融機関の外貨調達が困難になり、海外融資や有価証券を投資から損失が計上されるリスクもあります。

これらのリスクが顕在化するケースを、本レポート中では、ストレステストとして記載しています。今の状況下、リーマンショックと同様の株価下落、円高、内外金利の低下が発生し、ある程度の期間の経済活動の停滞が生じた場合、有価証券損益の悪化を中心に金融機関の自己資本比率は低下するものの、全体としては健全性を維持できるとしています。したがって、本レポートは、コロナ禍の問題が出ている現時点においても、国内金融システムの安定性が大きな危険にさらされてはいないという認識を表しています。

しかし、レポート内でも、あくまでも国内金融システム全体では、金融機関の自己資本比率を中心に健全性を保つものの、テールリスク発生時には、個別金融機関の自己資本比率はバラつきが大きく、中には厳しい状況となる金融機関も存在することを示唆しています。本レポートを通読して、特にマクロ・ストレステストの部分について、今回のパンデミックの影響で生じている事態からは、リーマン時の市場環境をテールリスクのシナリオとして活用するには若干無理があるのではないかと感じました。レポートで挙げられている、金融機関へのストレスが重なった場合、また、足下急増した無担保融資を考慮すれば、将来的に相当の貸倒れが想定されます。急増する貸倒れの金融機関バランスシートに対する影響を厳しめに見積もれば、体力のある金融機関以外の状況は一気に苦しくなる可能性もあるとみています。

その結果、市場では、個別金融機関の貸出しや金融仲介機能の低下という、意図せざる金融引き締め効果が生じ、さらに誘発される資産価格の下落から金融機関は有価証券損失という二重苦からマイナスのスパイラルに陥る状況をテールリスクとして考える必要があろうかと考えています。今後12年内に今回の影響が顕在化することも念頭に置いて当面の投資を行うつもりです。