白木信一郎の「投資運用苦楽」

第150回 < 2012年 ヘッジファンド投資環境予想 >

本年もなにとぞよろしくお願いいたします。2012年が皆様にとって素晴らしい1年となりますよう、心から祈願しております。昨年は日本にとっては大変な年となりましたし、グローバルの投資環境としても欧州のソブリン問題の顕在化に悩まされ続けた1年となりました。年後半にかけては、唯一米国の景気持ち直しが明るい材料となり、米国株式投資は通年でプラスのパフォーマンスとなりましたが、新興国投資を含む株式投資には厳しい年となりました。また、株式関連戦略やハイイールド投資戦略を中心に多くのヘッジファンド投資が苦戦することとなりました。

2012年は、昨年のリスク回避的な市場から転換していけるかどうか、今年の投資環境をヘッジファンド戦略の主要市場の観点から予想してみたいと思います。

(1) 信用(クレジット)市場について
信用(クレジット)市場は、2012年初は底堅く推移した後、年央に欧州金融機関による資産処理が重しとなり、軟調な展開となることを予想します。2011年は欧州ソブリン問題から金融機関の格付け低下、資産圧縮への懸念から総じて軟調な展開となりましたが、金融機関の具体的な資産売却などは進んでいない印象です。2012年半ばくらいから欧州の金融機関による債権処理が実施される可能性があり、社債市場の頭を抑える展開が考えられます。しかし、米国企業などがリファイナンスを前倒しで行ってきたことや、投資家資金が利回りの高い金融商品へ向かうことを勘案すると、相場が大きく崩れる展開までは考えていません。また、米国の住宅担保債権などが好調に推移していることから、こちらに対する資金流入が続くと思われます。全体としては、年間を通じて若干のプラスを想定します。

(2) 不良債権市場について
不良債権市場は、2011年にリスク・オフの動きが高まった局面で、株式市場とリンクして売られました。2012年にはその反動が予想され、堅調な展開を想定します。ただし、ハイイールド市場と同様、欧州金融機関からの資産売却の動きが重しとなる局面はあると思われます。新興国市場から米国中小型株式に対する資金流入が起こるのと同時に、先進国不良債権も買われる展開を想定するため、全体としては5-10%のリターンを予想します。

(3) 商品市場について
商品市場は、通年では緩やかな上昇を想定していますが、商品間でのバラつきが出やすい年になるものと思われます。エネルギーは、株式市場などのリスク資産と似通った動きになり、年前半は上値を追いやすい展開となった後、年後半に欧州発の金融機関のポジション調整の波を受けてこちらも価格を調整するものと考えています。貴金属相場は、これまで高騰してきた金価格を中心に年前半から軟調な展開を想定しています。穀物価格は堅調に展開するものと考えています。したがって、全体では5%程度のプラスを想定しますが、時期や商品によって変動性があると思われます。

(4) 金利について
金利については、年前半は株価が順調に推移する中で金利上昇圧力があるものの、政策期待から上振れ幅は限られるものと思われます。年後半では欧州金融機関のバランスシート圧縮の影響から景気に対する不透明感が高まり、今度は政策金利を抑えるプレッシャーの方が高まるものと考えています。米国のオペレーションツイストや、ECBによる債券買取プログラムが続行されるという認識から、金利系の運用者は比較的安心してポジションを取ることが予想され、安定した運用成績につながると考えられます。

(5) エマージング市場について
2011年、エマージング市場は、成長鈍化や欧州債務危機の影響から大きく値を下げましたが、2012年は堅調な展開を想定します。中国不動産価格の調整やこれまで新興国ハイイールド債券に流れ込んでいた資金の逆流がマイナス要因となりますが、年前半はリスク回避の巻き戻しによる新興国株式の戻りが想定されます。年後半に欧州金融機関の問題が再度注目を浴びる過程でも、新興国への影響はある程度限定されると考えています。通年で10%程度のリターンは確保できるものと想定します。

(6) 市場のボラティリティについて
市場のボラティリティは年前半に落ち着いた展開となった後、年半ばに一旦上昇する局面を想定しますが、ボラティリティの単純な買持ちからはリターンをあげにくいと思われます。VIX(S&Pのボラティリティインデックス)では、年前半に20を割込む状態が続き、その後30-40まで一旦上伸した後、年末には現状に近いところまで戻るというシナリオを想定します。

(7) 日本株式市場について
日本株式市場は、全体的に堅調な展開を想定します。復興需要の顕在化や施設の改築需要などに後押しされた設備投資の増加により、景気を底堅いものとすると考えられます。欧州の財政悪化問題から連想される日本の国債金利の急上昇も2012年中にクローズアップされるにはやや早く、金利も安定した状況が続くことで、住宅関連投資も横ばいから上向きを想定します。2011年に流出した外国人投資家の資金が徐々に戻ることもあり、株価指数で通年10%程度のリターンを想定します。

(8) ヘッジファンドについて
最後にヘッジファンドの資金流入については、各国年金基金や財団からの大型の資金フローが続くことから、引き続き大手ファンドを中心とした投資の需要に強いものが見られると思われます。しかし、大手ファンドの運用能力のキャパシティにも限界が見られることから、大手ファンドからのスピンアウトや、投資銀行から流れる人材の採用が一層激しさを増すことと思われます。

2012年初、国内外の運用者、投資家と話していますが、90%の人々は2012年について、かなり慎重なシナリオを描いています。キャッシュ比率も引続き高く、株式、為替、CDSを通じリスクヘッジもしっかりと持った状態での投資となっています。世界中が低金利であり、成長力にも限りがあることから、アップサイドも限られ、2009年のような高い収益率は期待できません。しかし、多数の運用者、投資家が慎重姿勢な状況下では、市場の大きなダウンサイドリスクは限られていると考えており、大半の投資家が想定するよりは好調なパフォーマンスを期待できる年となると考えています。今年は辰年となり、変化や改革の年といわれています。私どもも自らの変化、改革を進めながら頑張ってまいりますので、今年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。