白木信一郎の「投資運用苦楽」

第149回 < 2011年 投資環境予想を振り返って >

気が付くと今年も年末となりましたが、市場にはあまり明るい話題が無く、重苦しい状態が続いています。足下の市場動向も、欧州関連の政治的発言に一喜一憂する展開が続き、今年のキーワードになった感のある、「リスク・オン」「リスク・オフ」が目まぐるしく繰り返されながら、徐々に下値を切り下げていく状況です。

「2008年のサブプライム問題の表面化と米国金融機関の破綻」と比較し、今回の通貨としてのユーロ存亡の危機は、複雑な政治的事情が問題の進展するスピードを遅らせています。ギリシャの債務問題がメディアを通じて表面化した2010年4月から、20ヶ月が経過しても、問題が収束する気配がありません。2010年8月には米国債格下げというイベントもあり、現代の金融市場の根幹をなす、欧米資本市場への信頼度が低下していく過程では市場全体が重苦しい雰囲気に包まれることもやむを得ない状況かもしれません。

本コラムを書いている12月20日時点ではありますが、年明けに想定していた市場環境に対して、2011年は全体的に弱い展開となりました。今年一年の各市場がどのような動きであったかを振り返りながら、各市場を投資対象としているヘッジファンド戦略のパフォーマンスについて触れていきたいと思います。

(1) ×
信用(クレジット)市場は、投資適格債を中心に、2011年の夏ごろにはリーマンショック後最も利回りが低下して安定した動きを示していましたが、欧州債務問題の懸念が拡大し米国債格下げのショックが重なった8月以降、各種信用利回りが拡大しました。この動きは10月に一旦落着きをみせたものの、年末にかけて再拡大が続いています。結果として、社債関連のクレジット関連の運用戦略は総じて苦戦し、成績は5-10%のマイナスとなりました。しかし米国のモーゲージ関連債券投資戦略は別、総じてプラスの収益率を確保しています。

(2) ▲
不良債権市場は、各国の倒産確率が低位で安定していることも一因となり、流動性の高い信用市場ほどにはマイナスが大きくなりませんでした。ただし、パフォーマンスは必ずしも良いものではなく、全体としてはマイナス圏となりました。また、株式市場との相関は総じて高いものとなりました。

(3) ○
コモディティ市場は、年前半は予想していたとおり強い展開となり、4月以降ギリシャ問題から欧州財務危機へと問題が拡大する過程で、原油等のエネルギー価格を中心に下げ足を早めました。更に、安全資産として価格が上昇を続けた金市場でも9月に市場が急落して以降は、商品相場全体が弱い展開となりました。代表的なコモディティ指数は年間で12%程度の下落、コモディティ特化型のヘッジファンドの多くが5-10%程度のマイナスの運用成績を記録しています。

(4) ○
金利動向は、前半やや値動きの悪い時期もありましたが、年間を通じてほぼ低下基調となりました。2011年のなかで唯一安定した運用成績をあげたのは、金利系の運用者や、米国(プラス、ドイツ、英国、日本)債券を買持ちし続けたCTAとなったことも、この一本調子の金利低下の影響です。各国が大胆な景気刺激策を打てない中、各国中央銀行による債券買いが続いた結果です。また、米国においては、FRBが短期債を売却して長期債を購入する「ツイストオペ」が継続的に行われており、9月以降は特に長期債への買いが入りやすくなり、10年長期金利は足下1.8%台にまで低下しています。

(5) ×
エマージング市場は中国をはじめ、各国の株価が大幅に調整しています。指数にもよりますが、軒並み20-30%程度の株価調整が起こるのと同時に、4月以降は資源国、高金利通貨も値を大きく切り下げるなど、株価、通貨の両
面で投資家収益を圧迫しました。買持ちの割合が高いエマージング関連のヘッジファンドに関しても、平均して5-15%程度のマイナス幅を記録しています。

(6) ○
ボラティリティ関連戦略については、2011年中に何度か大きく市場の変動率が高まる局面があったため、多くの運用者が収益を残すチャンスに恵まれました。米国の景気指標が景気の回復を示してきていることもあり、9月以降は落ち着いた動きになっています。しかし、欧州株式市場や商品、為替などでは荒っぽい値動きが続いていることもあり、ブラック・スワン的な戦略に軍配が上がった年となりました。

(7) ×
日本株式市場には、2010年後半からの流れを引継いで、堅調な動きを想定しましたが、実際には米国株式市場を大きく下回り、欧州株式市場やエマージング諸国の株式指数に準じる動きとなりました。小型株やJASDAQ市場は相対的に下落幅が軽微でしたが、それでも、マイナス圏での推移となりました。

(8) ▲
ヘッジファンドへの資金流入は2011年8月時点までは投資家資金の純流入を観察しました。9月以降、資金の流出入が拮抗する状態となっていますが、通年としては資金量が純増しています。年初に想定していたとおり、マネージドアカウントを通じた資金流入が相当増加しています。一方、新規ファンドや小型ファンドの資金調達は2008年以降の流れは変わらずに苦戦が続いています。

堅調な相場展開を予想していた2011年でしたが、予想に反して2008年以来の厳しい環境となりました。欧州ソブリン問題という、解決に長期を要する大きな問題が市場参加者の不安要因となっています。大量の国債を保有するこ
とで、ソブリン問題に直結する各国金融機関の健全性も徐々に問題視されてきています。投資家資金と直接的に市場を結びやすいヘッジファンドの動きも活発とは言えず、金融市場全体に不安感、停滞感が蔓延しています。一方、プライベート・エクイティファンドがかかわるM&Aが活発化しています。株価低迷により、キャッシュが潤沢な事業会社がファンドと組んで買収を安い価格で行えるメリットも出ています。

2008年末には、材料出尽くしによる灰汁(あく)抜け感から、翌年の展望が開けやすい状況でしたが、2011年末を迎えても、当分は不透明な状況が続きそうです。しかし、市場は常に循環している側面もあるので、2012年中に何らかの相場の転換点が起きると期待しています。次回のコラムでは2012年の相場転換点について私なりの予想をしてみたいと思います