白木信一郎の「投資運用苦楽」

第355回 < 未上場株式の公正価値評価について >

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当社で運用しているセカンダリーファンドの投資対象は、主にPEファンドやVCのファンド持分と国内外の未上場株式です。当社のファンドが国際会計基準に準拠した時価会計を採用していることから、定期的に投資対象の公正価値評価を行う必要がありますが、上場株式のように市場で常に取引可能な時価が表示されているわけではありません。会計事務所などと相談しながら社内で作成した評価基準をもとに投資対象の株価などの時価を算出するのですが、投資対象によっては、詳細情報を入手する必要があるなど、毎回大変な思いをすることになります。

時価評価を行う場合、評価時の直前180日以内などに株式発行をするなどして、会社価値が明らかになっている場合、その価格を使うことが可能ですし、既にキャッシュフローがプラスになっている場合は、類似の上場企業の株価を参考にして、対象会社の株価を評価することもできます。そうでない場合には、対象企業の作成した事業計画のキャッシュフロー情報をもとに、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法などを使って価値を計測することもあります。これらの測定方法が難しい場合には、企業の純資産の価値を基準として評価することもあります。近年、未上場企業株式の取引が活発化するのに伴い、投資対象としての未上場株の時価評価(=公正価値評価)の必要性が増してきました。

今年、日本ベンチャーキャピタル協会として、メンバーであるVCのご協力を得て、国内VCベンチマークを作成するプロジェクトを実施しました。国内外の機関投資家が、国内VCへの投資を検討する際、比較対象となる欧米を中心とする海外VCと、日本のVCのパフォーマンスにどれだけ差があるのかを理解する際の指標として、ベンチマークは非常に重要な役割を果たします。これまでも、国内VCのパフォーマンスは、VEC(一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター)によって集計され、集計された全体のパフォーマンスとして開示されてきました。しかし、VECでの集計は、【1】VCの残存価値について必ずしも時価を使用していない、【2】ベンチマークの集計対象に、必ずしもリターン追求を目的としていない、戦略投資的な二人組合が多く含まれている、という理由から、海外のVCベンチマークと比較可能とはいえなかったのが実情です。

今回の国内VCベンチマーク作成プロジェクトでは、多くのメンバーVCの皆さんにお願いして、これまで運用されてきたファンドのキャッシュフロー情報と残存ポートフォリオの時価を、第三者機関に提供していただき、できるだけ、海外VCとの比較が可能なベンチマークを作成しました。「できるだけ」と注釈したのは、現時点では、まだ多くのVCが米国会計基準や国際会計基準に準拠しているわけではなく、国内基準に基づいた時価であったり、GPとしての時価評価を使っており、厳密に国際比較が可能な時価とは言い切れないためです。

日本ベンチャーキャピタル協会では、2017年に国際的なPE/VC関係者によって開発された国際的な価値評価のガイドラインである、IPEVガイドラインを和訳し、公表しています。ここに記載されている評価方法は国際会計基準などとも整合性があるため、日本の会計基準に準拠している日本のVCであっても、このガイドラインに従ったポートフォリの残存価値評価を行うことで、海外VCとのパフォーマンス比較が可能になり、また、それらの数値を集計したベンチマークも国際比較が可能になります。

日本においても、より多くのVC及びPEが、ポートフォリオの残存価値評価に国際的に認められる時価を採用することで海外からの投資家資金を呼び込みやすくなるものと思われます。また、これまで、主に海外ファンドに投資を行ってきた日本の大手機関投資家にとっても、国内ファンドへの投資を検討するのに有益な情報となります。私たちも経験しているので分かりますが、VCにとっては、これまでの業務プロセスを変えたり、事務負荷が増加することになることもあると思われます。しかし、業界全体にとって、また、時価を採用するVCにとっても必要な変化だと認識しており、協会としても、また、一投資家としても、皆様へのお願いを続けていきたいと考えています。