白木信一郎の「投資運用苦楽」

第356回 < アジアの金融拠点としての東京 >

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21世紀に入り、香港、シンガポール等のアジアにおける金融拠点に対してのプレゼンスは大幅に上昇する一方、東京の金融都市としての役割は、相対的に地盤沈下を続けてきたと言えます。急拡大した中国市場のゲートウェイとして発展を遂げた香港や、同じく成長を続ける東南アジアへの入り口として発展を遂げたシンガポールに、欧米の外資系金融機関はアジア戦略の本拠地を東京から、徐々に移していきました。2000年当時、世界第2位の株式市場を擁する東京の金融市場の魅力度は高く、外資系金融機関も多くの人材を配置していたものの、現在ではその状況は大きく変化しています。

私どもが見ているヘッジファンドの業界においても、香港、シンガポールにおける運用者数の増加は顕著である一方、日本での運用者数の増加は限定的です。当然、2000年代初期から、政府や金融当局はこの状況を認識しており、時々、いかにすれば日本がアジアの金融拠点としての立場を取り戻せるかについての議論がありました。解決すべき課題として挙げられていたのは以下の通りです。

【1】 税率の高さ。香港、シンガポールは所得税、法人税が低いのに加え、相続税が原則発生しません。日本における税率は世界でも上位に入るため、法人としての金融機関や、金融機関に働くプロフェッショナル人材は、税率の有利な2都市を選ぶ傾向があります。
【2】 言葉の壁。日本での正式な手続きは原則すべて日本語で行われます。例えば、当局への届出書の提出や検査対応も日本語での対応が必要です。香港、シンガポールはすべて英語で行われるため、欧米の機関にとって非常に便利です。
【3】 煩雑な手続き。運用会社等の金融機関を日本で始める場合、財務局での登録手続きなどが必要ですが、手続きが極めて煩雑であり、場合によっては登録や認可まで1年以上かかるケースも散見されました。香港、シンガポールでは、登録手続きが簡素化されており、登録までにかかる期間が予見できます。

上述以外に、外国人プロフェッショナル人材が日本で働くための生活環境の違いがあげられます。例えば、お子さんを通わせるためのインターナショナルスクールや、海外では一般的な家事手伝いサービスが香港、シンガポールでは廉価で充実しているようです。もっとも、日本には他国にない安全や清潔さ、自然、歴史や文化に裏付けられた観光資源が豊富です。海外から日本に来た人々の多くは、日本の素晴らしさに感動を覚えるようですので、生活環境という意味では、メリットとデメリットで相殺といったところでしょうか。

2020年11月6日に金融庁が金融行政の英語化及びワンストップ化についての方針を打ち出しました。この取組みは、日本の金融・資本市場の魅力を向上させ、海外金融機関・専門人材の受入れ環境整備を一層加速させていく各種施策(税制、人材、その他ビジネス環境整備、英語による金融行政)の「第一弾」であり、引き続き、関係省庁とともに、日本の国際金融センター機能の強化を目指して取り組む(金融庁ホームページから引用)、というものです。

私たちが長年、課題として考えてきた、言葉の壁、煩雑な手続きを解決する素晴らしい取組みだと思います。この上で税制の改正によって、海外金融機関及び外国人プロフェッショナル人材にとって魅力のある国となれば、東京はアジアの金融拠点として再び輝きを取り戻す可能性もあります。それは、制度面、税制面をどこまで使いやすく、魅力のあるものとすることができるか、という今後の取組にかかっていると思われます。