白木信一郎の「投資運用苦楽」

第122回 < オルタナティブ投資戦略間での人気・不人気 >

機関投資家、ファンド・オブ・ファンズ、個人投資家でヘッジファンドやプライベートエクイティファンドに既に投資を行っている人々は、通常、ある程度の分散投資を行っています。例えば、株式ロングショート戦略だけに投資するのではなく、それぞれに収益に出方が異なるようなグローバルマクロファンドやCTA、転換社債裁定取引ファンドに投資を行うことで、ポートフォリオとしての運用成績安定化を図ります。ヘッジファンド戦略株式投資を行う際に様々な戦略に分散して投資を行うのは、株式投資になぞらえると、輸出中心の製造業だけに投資をするのではなく、小売業や金融業にも同時に投資するのと同じようなものです。

もちろん、業種に関わらず、あるいは特定業種内であっても株価の落ちない「優良銘柄」だけを選んで投資できれば良いのですが、時には経済環境に業種全体が影響を受けてしまうこともありえます。例えば、急激な円高は、日本の輸出関連業種に対しての逆風となり、他業種比でのパフォーマンスを押し下げることになります。ヘッジファンド投資戦略にも同様に、「旬」の戦略とそうではない戦略があります。株式市況が堅調なときには株式を買持ちにしがちな、株式ロングショート戦略やイベント・ドリブン戦略等は好調になりがちですし、株式相場が不調であっても債券や商品市況が好調であれば、CTAやグローバルマクロ戦略が好調になる傾向があります。

但し、投資家が常に市場の動きとヘッジファンド投資戦略毎の運用成績の間に相関を見出し、その時々の市場環境に応じて合理的に投資戦略の選択を行っているわけではありません。第一に、株式投資と異なり、通常、ヘッジファンド戦略、ましてやプライベートエクイティ投資を含む戦略へは、一度投資を行うと一定期間解約が出来ません。市場の目先の動きに振らされることがないというメリットもありますが、投資家の立場からは市場の変化に応じた柔軟な対応の難しい投資とも言えます。また、投資家は投資対象を選好する際に過去2-3年間の運用成績に重点を置く傾向があります。その2-3年間が現在とは明らかに投資環境が異なる期間であったとしても、この傾向が見られます。機関投資家から、個別ヘッジファンドなどへの投資を行う際に「最低でも過去3年間のトラックレコード(運用実績)がないと投資判断が出来ない」というコメントを聞くことがよくあります。これは、ファンドの運用能力を評価する際のデータポイントとして月次のデータを取ることが一般的になっているために、少なくとも36ヶ月分のデータがないと有意な定量判断が出来ない、という理由なのですが、結果的に様々運用関連データについて、足下3年程度の内容を過大に評価する傾向につながっています。

比較的歴史の浅いヘッジファンド業界や、移り変わりの激しい運用者のことを勘案すれば、このような傾向も致し方ないとも思えますが、実はヘッジファンド戦略や個別ファンドの選定に限らず、人々は自分たちの限られた経験や記憶の中で投資対象のリスクを測り、選択を行うことが、行動経済学の分野で研究されています。したがって、ヘッジファンド戦略や個別ファンドの人気も足下の運用実績に過度に依存しているのが一般的であり、この人気は必ずしもその後のパフォーマンスにつながりません。むしろ、過度に人気が集中するような投資戦略には、資金が集まり過ぎることから、収益機会が減少することや、レバレッジの高まりが観測されることが多く、所謂バブルの崩壊を迎えることで、予想を超える損失を計上することになります。

したがって、私たちが投資判断を行う際には、人気のある投資戦略については、足下の運用成績がいかに良かろうとも、あるいは良いからこそ資金が集中するリスクを注視し、その分、その後の期待リターンを割引いて考えるということを意識して行うようにしています。