白木信一郎の「投資運用苦楽」

第117回 < 運用資産としての金(ゴールド) (2) >

8月に入り、株式市場が低迷する中、金(ゴールド)価格が上昇しています。5月末以降に一時上昇に転じたユーロが対ドル、対円で下落していること、株価が下落していることで、現在「リスク資産」といわれるアセットクラスから「安全資産」である金(ゴールド)に資金がシフトしているというのが理由のようです。

グローバルの企業活動の基軸通貨となる「ドル」「ユーロ」「円」に対する信任が失われているのは、米国、欧州、日本の経済力の低下とバランスシートの悪化が背景にあります。各国通貨の合成通貨である「SDR」を基軸通貨とするというアイデアが出ることもありますが、現時点で構成される通貨の比重を考えると、ドルを中心としたものになるため、実質的な変化は考えられません。固定相場制への回帰という案も米国が現在の通貨の主権を放棄することにもつながりかねず、強い反対があると考えられます。

基軸通貨を持つ国の要件は、一般的に(1)経済力や国際通貨供給の観点からのレート管理能力、(2)政治、軍事力を背景とした国際安全保障におけるリーダーシップ、(3)国際的、対外的な文化的な影響力ということがあげられます。現在、20世紀から21世紀における先進国と新興国の関係が経済力の均衡から大きな転換点を迎えようとしていますが、今後10年程度では米国経済やその影響力の急速な失墜も考えにくいことから、基軸通貨についても現状が維持される可能性が高いものと思われます。現時点では、新興国経済が伸びているとはいえ、基軸通貨の座を「元」「ルピー」「レアル」等の新興国通貨が脅かすことは難しいと思われます。しかし、20年後、30年後に思いを馳せれば、新興国経済の経済規模や前述の国際的な地位の上昇に伴い将来の経済大国通貨を中心としたバスケット通貨が基軸になっている可能性は十分にあると思われます。

このように、金(ゴールド)が選好される背景に現在の基軸通貨の信任失墜があるとしても、当面は基軸通貨が「変わる」可能性は少ないと思われます。ただし、過去のイギリスポンドから米国ドルへの基軸通貨のシフトのように、長期的には変化が徐々に、あるいは突然起きて、現在の新興国通貨に代替わりする可能性が最も考えやすいシナリオです。一方、前回のコラムでも書きましたが、金本位制は過去のものであり、経済規模や資本市場の特性を考えれば、金に通貨としての機能が戻ることは考えにくい選択肢です。

また、商品市場に上場している「商品先物」は金融資産として「リスクアセット」として取扱われていることが大半です。市場変動性は株式市場よりも高く、買い持ちだけを続けるのであれば、安定的資産とは到底言えません。実際、金(ゴールド)価格は1987年から2000年にかけて長期にわたって下げ相場にあり、時として大きな変動率を記録してきました。しかし、今日時点では金(ゴールド)は「安全資産」の代表格の扱いを受けているようです。しかし、その「安全資産」としての裏づけは、考えれば脆弱に見えてきます。

現在、前回のコラムでも書いたように、金(ゴールド)の保有主体は中央銀行や装飾関係業者になります。しかし、これらは安定した買い手であり、実際に現在の価格を大きく動かす需要は投機資金とも言われるETFやインデックスファンド、及びそれらの買い手であるヘッジファンドや機関投資家、個人が中心です。しかもそれらの買い手の存在感が増したのは、まさに価格が高騰し始めた2005年からのように見えます。それらの投資家は中央銀行や装飾品実需投資家のように金を保有していなければいけない蓋然性が少なく、上がっているから買う、下がっていないから保有を続けるタイプの投資家です。例えば、金(ゴールド)が最初に買われ始めたときには「インフレリスク」に対するヘッジとしての金融資産でした。しかし、現在先進諸国を中心にデフレの懸念が出ている中、今度は通貨代替としての側面に注目が移っていることで依然価格が上昇しています。

運用者の立場としては、これまで述べてきた理屈を正当化して、金(ゴールド)の売りポジションを持つ考えは毛頭ありません。むしろ、価格上昇局面では需給の状態に気を配りながら買いポジションを保有するケースが多くなります。但し、価格上場の理由や、市場の歴史が形作った金(ゴールド)という非常にユニークな運用資産としての特性をしっかり頭に入れておかないと、動きに変化が起きたときに対応が遅れる可能性があります。今後も、様々な運用資産の観察を続けながら、また、市場の動きや参加者の考え方に疑問を持ちながら行動していきたいと思います。