白木信一郎の「投資運用苦楽」

第116回 < 運用資産としての金(ゴールド) (1) >

昨今、投資対象としての金(ゴールド)が脚光を浴びているように見えます。米国経済が10年前の日本と同様の状況に立っているように見える中、基軸通貨としての米ドルの価値が問われているのもひとつの原因かもしれません。また、通貨の価値が落ちて、商品価格が高騰する、いわゆる「インフレーション」の際には、金を持っている意味があるのかもしれません。実際、金価格は2000年の安値から今日までの10年間で4.7倍近い価格になり、約370%の上昇率を記録しています。

しかし、本当に金に通貨の代替やインフレーションのヘッジツールとしての価値があるのでしょうか?特に、最近の市場動向を見ている際に、原油やガソリンなどのエネルギーやトウモロコシや大豆などの穀物、あるいは、工業用に使われる金属であるプラチナ、銅やアルミなどの価格と金の価格の動きが乖離し、金価格だけが上昇するようなケースが多く見られるたびに不思議に感じることがあります。私の資産としての金に対する疑問は二つあります。

ひとつは「金本位制下での通貨としての金の役割は70年以上前に終わったはずではないか。いまさら金に通貨としての価値が戻る可能性が少しでもあるのか?ないとすれば、人々はどのような根拠で金を持つのか?」、そしてもうひとつは、「物価の高騰するインフレーション時に、人々が必要とする資産、いわゆる必需品に近い商品価格が高騰することは容易に理解できる。また、希少性の高いレアメタルも実需の面から高騰する理由も十分にあるように感じる。しかし、安定供給がされ、実用の途が少ないために需要と供給のミスマッチが起きにくい金が他の商品よりも高騰していく理由があるのか」という点です。

金は商品市場の中でひときわユニークな存在だと思います。私たちの世代では、既に歴史の教科書でのみお目にかかる「金本位制」の名のとおり、一時はものの価格の裏付けとなるものは金でした。1ポンドの通貨として使われた1816年のイギリスから始まり、第一次世界大戦を契機に米国が最大の金保有国となる等の変遷を経て、1937年のフランスでの制度が最後となるまで、121年間多くの国々で金本位制が取り入れられていました。

さらに、金本位制から現在主流の変動為替相場制へ移行する過渡期にあった「米ドル金為替本位制」を中心としたIMF体制金本位制(ブレトン・ウッズ体制)も1971年に米国がドルの金兌換を中止したことで終焉を迎えました(ニクソン・ショックの原因として有名です)。今日、金は、当時の通貨体制の名残として象徴的な意味しか持っていないはずです。その証拠というべきか、1970年代以降、2008年までの間、世界銀行を中心に各国中央銀行は徐々に外貨準備における金の保有比率を落としてきました。米ドル金為替本位制の名残として、また基軸通貨そのものの発行体である米国は外貨準備のうち金が占める割合が70%で、その総量は8,000トンを超えます。しかし、日本や中国では外貨準備総額に対する金の保有量は2‐3%に過ぎず、各国においてもその保有量は徐々に減っています。特にスイスなどでは、その保有量が顕著に減少しており、過去10年間で半分以下になっています。

一方、金は装飾品としての需要が最も多く見られる貴金属です。過去には、年間3,000トン近辺でコンスタントな消費が行われてきました。しかし、これらの装飾品需要は過去10年に大きな変動のあったものではなく、むしろ、リーマンショック前後では2000年に比べて需要は大幅に減退しているようです。また、この10年間、日本を筆頭に先進諸国はインフレどころか徐々に低成長、デフレの入り口に向かって進んできた状態だったはずです。このような状況下で冒頭に述べたような金価格の上昇が起こってきたのはなぜでしょうか。

英国で最も権威のある金の調査会社であるGFMS社の統計資料を見ると、この10年間で金の需要の伸び率の最も高い分野は商品インデックス、ファンドやETFなどの金融商品を購入する投資家の資金と鉱山会社などの買いヘッジによるものでした。特にインデックス、ファンドやETFなどの金融投資家の資金の伸び率が急激です。鉱山から採掘される金の採掘量やリサイクルを通じて得られる金の量がほぼ一定で、前述の中央銀行や装飾品としての需要が横ばいもしくは低下している中、金価格を押し上げているのは純粋にこれらの金融投資家からの資金ということになります。

次回のコラムでは、現在、金に対して投資を行っている人々がどのような理由でそれを行っているのか、そして、筆者が感じる疑問との乖離はどこにあるのかについて考察してみたいと思います。