第357回 < 日銀金融システムレポート2020年10月号を読んで >

毎年、4月と10月の年2回、日銀から発行されている金融システムレポートは、日本の金融を取り巻く環境を、主に、銀行、信用金庫などの金融機関の観点から分析しています。その網羅性と深度、及び情報の新しさという点で、たいへん貴重なレポートとして、長年、重宝して愛読させていただいています。

最新号は、コロナ感染症の影響が拡大した今年の3月から足下までの情報を含んでおり、通常のレポートに比べて、分量も増え、内容も充実していたように思います。本レポートは、日本における金融システムの健全性を検証し、また、その主な担い手である国内金融機関の安全性について分析を加えていますが、今回のコロナ感染症の影響によって、ここ数年とは大きく異なる内容となっているので、その点に留意したうえで、本レポートの概要と感想を述べたいと思います。

本レポート内では、コロナ感染症の影響により、企業の経常利益が約40兆円失われる見込みであり、国内GDPが大きく落ち込んでいるものの、その影響は、政府、日銀による支援、実質無利息融資などの手当てによって、ほぼ相殺されており、少なくとも今年度中にデフォルトなどが急激に増加することはない、としています。その点、短期的には、コロナ危機を金融面、財政面で抑え込んだことを評価しています。

一方、金融市場においては、国内外の景気落ち込みの⻑期化に伴い、信用コストが上昇しつつある点をあげています。国内企業の売上、利益が大幅に落ち込んだことから、企業の借入が増加しています。近年、企業が総じて自己資本や手元資金の両面で財務基盤を強化してきたことから、当面デフォルトの増加が抑制されるものの、景気悪化が長引く場合に、債務返済能力の低下から、これまで脆弱性が進んできたとみられている、ミドルリスク企業向け貸出、不動産向け貸出、大型M&Aに関連した高レバレッジ案件向け貸出への影響が懸念されるとしています。また、国内銀行の海外向け貸出について、エネルギー向けプロジェクトファイナンスや需要が縮小している航空機関連のファイナンスが多いことを懸念しています。

また、3月に見られたような金融市場の大幅調整から、国内金融機関の保有する有価証券価格が毀損し、損益が悪化することについての懸念が述べられています。特に、金融機関における内外クレジット商品、複雑な投資信託の残高が膨らんでいたことから、これらの資産のリスク管理について懸念があるとしています。さらに、コロナ感染症の長期化によっては、実体経済の弱体化が更に進み、リーマン・ショックを超える金融市場の動揺が起こる可能性があり、ドルを中心とする外貨調達の不安定化によって、国内銀行の資金繰りに影響が出る点を懸念しています。

本レポート内では、金融システムのリスク、脆弱性に注意を払っています。例えば、金融活動指標として、与信の状況や株価や地価等の動向を観測し、足下状況が過去推移からどれだけ乖離しているか(金融ギャップ)を求め、また、総需要(実際のGDP)と潜在的なGDP(平均的な供給力)との乖離(需給ギャップ)を計算することで、現状の金融システムのリスクを把握しようとしています。今回は、コロナ感染症の影響による中小企業での急激な運転資金ニーズの高まりによって、各指標が異常値を出しており、結果として、リスクが非常に高い値となっているものの、状況の特殊性から、必ずしも金融の不均衡リスクが高まっている状況にはない、と結論しています。

また、レポート内では、今回のコロナ感染症の状況を踏まえて、今後のストレス・テストを行っています。ベースラインシナリオとして、足下の金融市場がすでに状況を織り込み済みで、金融市場が今後横ばいで推移する状況を想定しており、景気改善が緩やかであったとしても、金融機関の健全性は保たれるとしています。一方、今後景気が長期にわたり停滞し、金融市場も大きく調整するようなケースでは、金融機関の経営体力の低下が実体経済のさらなる下押し圧力として作用することが確認されています。

本レポート内で展開されている、詳細な分析の内容を見ると、これまで相当に頑健であった金融機関のストレス耐性が、今回のコロナ禍によって試され、政府、中央銀行の支援が大きかったものの、その安定性が証明されたと考えられます。一方、今回のストレスによって、その安全性のバッファーが削られており、今後の景気変動に大きく影響を受けやすい状況になったと理解しています。特に、既に問題が生じていたと考えられる、不動産価格上昇に伴う過度な不動産関連融資や、財務基盤の脆弱な企業向けの融資、高レバレッジ案件への融資の問題が連鎖的に起こった場合には、クレジットスプレッドの急拡大などが、日本国内においても起こりやすい環境となったと理解すべきではないかと考えています。