第415回 < 欧州におけるファミリーオフィス事情 >

先日のロンドン出張の際、欧州におけるファミリーオフィスの数と彼らが扱う資産規模が急拡大している状況を目の当たりにしました。また、資産の増加に伴い、ファミリーオフィスを取り巻くウェルスマネジメントビジネスが、この10年間で大きな成長を遂げていることも知りました。その中で、シングル・ファミリーオフィスと言われているのは、ロックフェラーやビルゲイツに代表されるような、大成功を成し遂げた経営者が自身のもしくは一族の資産を運用するチームや組織のことです。場合によって、それらの組織が他の富裕層の資産管理を請け負うことがあります。それらの組織は、マルチ・ファミリーオフィスと言われ、既にある単一のシングル・ファミリーオフィスのノウハウを他のファミリーと共用し、さらに大きな規模の運用が可能になります。

規模の大きなファミリーオフィスは自ら経験豊かな専門家を持つことが可能ですが、グローバルでは250百万ドル(約350億円)以下のファミリーオフィスは十分な専門家の採用が難しいと言われています。ファミリーオフィスの専門家に必要とされているスキルは、資産運用のノウハウだけではなく、次世代への資産継承の方法や規律(ガバナンス)の在り方、リスク管理等であり、当然、一人の専門家ですべてをカバーすることは困難です。また、10億ドル(約1400億円)を超えるようなファミリーオフィスであったとしても、アセットアロケーションやポートフォリオのリスク管理、財務管理等については、自身の組織で出来たとしても、投資調査、税務、サイバーセキュリティ、法務、保険、ライフスタイル等についてまで網羅できているところは少数のようです。

したがって、ファミリーオフィスのニーズを満たす、上述のサービスを提供する金融機関が増加しています。いわゆるプライベート・ウェルスマネジメントと言われるビジネスが拡大している背景には、ファミリーオフィスが急増する一方、高まるガバナンス、リスク管理等へのニーズを満たすためのリソースが確保できない、という事情があるようです。日本においても、成功した起業家の数が増えるにしたがい、欧米型のファミリーオフィスも徐々に増えてきているように思われます。その一方で、ファミリーオフィスを取り巻くビジネス環境は米国、英国ほど整備されてはいないように思われ、これからの発展が期待されます。

さて、2022年末時点のグローバルのファミリーオフィスの調査レポートを読んでみると、以下の特徴が見て取れます。平均的なファミリーオフィスの資産規模は22億ドル(約3000億円)で、専門家に対するコストは資産対比で年間0.3-0.4%を割いているようです。最近の市場環境に関する関心事としては、地域によって異なりますが、地政学リスクへの対応、インフレーションへの対応の必要性があげられます。投資対象資産の分散時については、高格付け短期債券とプライベートエクイティ、不動産などの現物資産に対する配分を増やすというダンベル型のアプローチが人気で、投資セクターとしては、多くの仮想通貨に使われている分散型台帳技術関連とヘルスケア関連が人気のようです。

ファミリーオフィスによる投資は、年金基金や金融機関、財団などのいわゆる機関投資家と比べて柔軟で機動的な運用が可能な点が魅力的です。しかし、2022年末の平均的なポートフォリオを見てみると、その資産配分は機関投資家のそれと大きくは変らないようです。具体的には、グローバルの先進国上場株式に25%、プライベートエクイティファンドとヘッジファンドで25%、不動産10%、先進国債券10%、新興国株式と債券あわせて10%等が主な投資対象となります。もっとも、貴金属や美術品等にも合計で5%程度投資しているのがファミリーオフィスならではと言えます。特にプライベートエクイティやヘッジファンド等の高い収益が期待できる投資対象は公開情報が少ないため、ネットワークや確りとした調査やモニタリングのスキルを持つ専門家が必要になります。このため、前述の350億円以下の規模のファミリーオフィスでは運用の外部委託が選択肢に入るようです。

このように年々成長を遂げるファミリーオフィスとそれを取り巻く環境について、今後もしっかり調査を続けていきたいと思います。

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