白木信一郎の「投資運用苦楽」

第299回 < 最近の国内投資顧問会社の人材採用・育成について >

先日、複数の投資顧問会社の方々と監督当局の方々を交えて議論する機会があり、その際、国内の投資顧問業の人材採用、育成が議題となりました。少人数で運営されている独立系運用会社では、役職員一人ひとりの役割、影響が大きく、人材採用は会社の命運を決める重大事です。また、仮に未経験者の方に加わって頂いた場合、人材育成面では教育担当者をはじめとする会社側の負担も大きく、自ずと採用した方に対する期待も大きくなります。

議論の際に出た意見として、「国内金融市場の低迷期が長かったため、採用の対象となる人材プール、特に若手層の対象に数の限界があること」や、「英語を使える人材が少なく、更に対象が絞られてしまうこと」などがあげられました。運用会社が運用人材の充実を求めるのは当然ですが、近年、小規模会社であってもコンプライアンスに関わる業務範囲、業務量が増大しているため、コンプライアンス関連の人材に対する需要も増大しています。複雑な金融商品取引法への対応が可能な人材が限られる上、個別会社が法改正への対応を行うためには内部人材を育成していく必要もあります。一部、法律事務所などへの業務委託で対応しているものの、この分野での人材確保も必須になっています。

日本の金利が長期間低位安定してきたため、債券市場を主戦場とする運用者候補は2000年以降減少傾向にあります。低金利、マイナス金利の影響で市場全体が低収益となっており、運用のダイナミズムが全体的に低下しているのも事実です。また、採用側の求めるレベルがグローバル市場の金融の複雑化、高度化に引きずられる一方、若年層の金融業離れもあり、業界の高齢化が進み、金融人材市場の需要と供給のミスマッチが進んでいるようにも思えます。急速な成長を期待できるIT関連のベンチャー企業等が優秀な若手人材を引き寄せる一方、出る杭を好まない日本の金融機関には安定志向の若手が多いことも、独立系運用会社が他国ほど成長しない理由かもしれません。

人材育成については、議論の参加者の多くが、日本における金融リテラシーの向上の必要性を論じていました。また、金融リテラシーの向上には、よく投資家教育が必要と言われていますが、実際には投資家に対して教育を行う側の育成が足りていないのではないか、という提言もありました。巷で行われている投資家教育が、詐欺対策や、違法業者等にいかに騙されないかに焦点が当てられやすいが、本当に必要なのは根本的な経済、金融への理解であり、この点については学校時代からの取組が必要という意見がありました。

運用会社の採用後の人材育成という側面では、指導側の負担を指摘する声が多く聞かれました。特に小規模の運用会社では、既存役職員が日々の業務運営に追われる中、新人の育成にどこまで時間を割けるかが課題となります。それでも、継続的な採用と育成は、会社の新陳代謝を維持する上で非常に重要なこととなります。ある独立系の運用会社では、10年以上同じメンバーで業務運営を行ってきた結果、高齢化が進み、従業員の健康、生活スタイルの変化が業務に与える影響が大きいとのことでした。インターンシップなども活用し、時間をかけて採用と育成を行うことが求められると思います。

資産運用ビジネスは金融業界の中でも成長を続けている分野です。政府もNISAや個人型確定拠出型年金(iDeCo)の推進を通じて個人の投資をサポートしています。また、金融機関、年金をはじめとする機関投資家や個人富裕層の有価証券投資残高も大きく増加しています。この成長を担う人材の採用、育成は喫緊の課題であり、私たちが日々考えていかなければいけないことです。これまで20年近く、業界団体のセミナー、フォーラム、講義、勉強会等を通じて、金融業界の発展に寄与しようと心がけてきました。しかし、会社を通じてオルタナティブ投資という比較的新しい分野で業務を行っている私たちは、自らの知識向上、研鑽に努め、一緒に経験し成長できるメンバーを一人でも増やしていくこで、この課題にあたっていく必要もあると考えています。