白木信一郎の「投資運用苦楽」

第293回 < 今投資家が考えるべきこと(3) -資産の流動性について- >

これまでの金融危機時に頻繁にみられた現象は、投資家が保有する資産価値の下落の直撃を受けた際に損失を穴埋めするために、流動性の高い他の資産を換金売りするという行為です。特に、信用取引、証拠金取引に代表される「レバレッジ」をかけた投資を行っていた場合、元本を超えて損失が拡大した場合には他の健全な資産の売却を迫られます。似たような投資を行っていた他の投資家が多い場合、相当期間にわたって資産価格下落の負のスパイラルが発生します。
不動産、インフラ関連資産、未上場株投資や証券化商品等の流動性の少ない金融商品は、一般に長期投資を前提としており、すぐに換金できません。これらの資産を慌てて市場で換金しようとすれば、かなり安い価格で売らざるをえなくなります。2008年のサブプライムローンの問題において、リスクの高い不動産関連ローンが証券化され、切り売りされました。流動性の低くなった金融商品が蔓延した結果、当該資産価値の下落が他資産にも波及し、投資家は様々な金融資産を売却しました。不動産や仕組債等が他資産への投資のための担保に供されていた場合、担保価値の下落に伴い資産売却が加速していきました。

前回の金融危機後に発生した過剰流動性相場の中で生じた今回の資産価格上昇の過程でも、不動産を担保としてレバレッジをかけた投資や、証拠金取引等が様々なところで見られます。今後、一部の投資家の想定を超える資産価格の下落が発生した場合、他資産を巻き込んで金融市場全体における金融資産価格の負のスパイラルが生じやすい環境にあるといえます。

しかし、適度なレバレッジは資産運用を行ううえでも健全なことといえますし、成長力のある企業が様々な形で借入れを行うことは当然でもあります。また、流動性の低い資産自体に問題があるわけではなく、債券、株式等の伝統的な資産と異なる不動産、インフラ、実物資産等を適切な形態で適量保有することは投資家のポートフォリオにとって分散というプラスの効果をもたらします。あくまでも、その投資家にとって「過度なレバレッジ」と「換金売りに対応できないほどまで増加してしまった低流動性資産の保有割合」との組合せが、金融危機時の大幅損失という問題を引き起こす原因になりえます。
また、金融商品の流動性は市場環境によって大きく変化することがあるので、投資家は注意する必要があります。ここ数年のような良好な環境下においては、物件の質にもよりますが、保有不動産を取得時よりも高い価格で売却することは比較的容易です。また、利回りの高い金融商品に対して、資金運用難を理由とした投資家が本質的なリスクを認識しないままに投資を増やす可能性も高いものと思われます。しかし、いざ金融市場の混乱が長引くような環境になれば、これらの投資家は一気に影を潜め、換金売りをしようにも市場の流動性が枯渇することになります。

このような投資家の非合理的ともいえる行動が、金融資産の価格にサイクルをもたらすのが常です。低流動性資産の場合、環境が悪化したときの換金可能な価額は当該資産の本質的価値を大幅に下回ることがあります。したがって、流動性の低い資産に対する投資を行う場合は、投資環境の変化が数年おきに発生するという認識をもっておく必要があるように思えます。また、自身の投資資産全体における低流動性資産の割合とレバレッジの水準は、自己の資金の性質について十分に理解したうえで決定する必要があります。特に、投資環境が大きく変化する可能性のあるいま、私たちも自分自身にこのことを強く言い聞かせて行動しています。