白木信一郎の「投資運用苦楽」

第321回 < 欧米のファミリー・オフィスについて >

最近、米国と欧州のファミリー・オフィスの方々とお話しする機会がありました。日本ではファミリー・オフィスという概念にあまり馴染みがありませんが、欧米では、財を成した一族が、その事業や資産を管理するファミリー・オフィスを持つことは一般的です。その目的は、将来にわたって一族が永続的に維持・発展するためのサポート機能を果たすことです。

ファミリー・オフィスにとって、一族の金融資産の運用を通じて「金融財産」を維持・増加させることはその目的の一部に過ぎず、文化事業の振興や教育機関への寄付行為、美術品の収集などを通じて、一族の「知的財産」を増やすこと、また、一族の後継者、後継者候補たちに質の高い教育を施すことや、一族の経営をサポートする外部人材を確保するなどの「人的財産」の構築を通じて、一族の有形、無形の資産価値を向上させていくという役割を担っています。

私たちは欧米のファミリー・オフィスと金融資産の運用の側面でお付き合いすることがあります。かれらは、永続的、安定的な資産形成を目的としているため、長期投資を好む傾向があります。長期にわたって安定的な収益を計上するために、ほかの大勢の投資家と同じような投資をすることが往々にしてマイナスに働くことを実体験としても理解しており、したがって、多くのファミリー・オフィスが非伝統的な投資手法を好む傾向にあります。特に、1980年代から90年代のヘッジファンドの黎明期を支えたのは、欧州を中心とするファミリー・オフィスでしたし、バイアウトやVC等のプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の投資家としても常に大きな存在感を示しています。たとえば、先日、米国で面談をしたファミリー・オフィスは、「価格決定が非効率的な投資対象に対し、忍耐強く投資を行うこと」を金融資産運用の心得の最上位に置き、割安な中小型株式投資ファンドや、PEファンドに積極的に投資を行っていました。

投資家としてのファミリー・オフィスは、金融機関や年金といった機関投資家のような複数階層に分かれた複雑な意思決定機関を持たず、比較的素早い投資の意思決定が可能である上、投資の時間軸が長く、長期間にわたる関係構築が可能であるという理由で、一般的に運用者から好かれやすい傾向にあります。また、長期にわたって投資を経験している熟練の投資家を抱えることや、ファミリー・オフィス同士の横のつながりもあるため、しばしば機関投資家に負けないほど投資に関する情報を持っています。横のつながりを活用したリファレンス・チェックも頻繁に行われています。

彼らの目的が金融資産の運用だけではないことを感じるのは、ファミリー・オフィスによる欧米での文化事業や教育機関への寄付の習慣を見るときです。筆者の母校でもあるロンドン・ビジネス・スクールは、2012年から新校舎設立等を目的として寄付を募りました。結果として、125百万ポンド以上の寄付を集めたと聞きましたが、その中には多くの個人富裕者やファミリーオフィスによる寄付がありました。特に、新校舎の建物名サミー・オファー・センターの名前につけられているオファー家の財団からは25百万ポンド(約37億円)の寄付がなされました。先日、2017年9月に竣工した新校舎の中を見学しましたが、政府の持ち物であった旧メリルボーン・タウンホールを買取り、改装した建物は外部と内部の一部に歴史的な佇まいを残しつつ近代的な施設を備えた素晴らしい校舎となっています。

日本でも、あまり知られていないだけで、数多く存在していると思われるファミリー・オフィスですが、欧米では大きな存在感を持っているのに対し、あまりにも知られていないように思われます。文化的な違いが大きいとは思いますが、欧米のファミリー・オフィス文化を知るにつれ、日本も彼らに学ぶ面が大きいのではないかと感じています。