白木信一郎の「投資運用苦楽」

第172回  <  2013年 ヘッジファンド投資環境予想 >

本年もなにとぞよろしくお願いいたします。2013年が皆様にとって素晴らしい1年となりますよう、心から祈願しております。昨年末から今年年初にかけては、日本の株式市場が円安や自民党政権による景気刺激策への期待を背景に大幅に上昇したこともあり、金融市場は例年に比べるとだいぶ明るい雰囲気に包まれています。
世界的にもリスク回避モードは抑え込まれ、不動産をはじめとしてファイナンスが容易になり始め、随所にレバレッジの芽が見えてきました。リスクテイクの尖兵ともいえるヘッジファンドにとっては良い環境と言えると思います。

例年のことですが、年初に2013年のヘッジファンドを取り巻く環境について以下考えてみます。

(1)信用(クレジット)市場は、住宅担保債権を中心に昨年堅調に推移し、年後半にかけてさらに買い進まれた感がありました。流石に年末にかけては息切れした部分もありましたが、中小企業へのファイナンスやハイイールド債は安定的に推移しました。レバレッジも足下は限定的であり、2013年は更に高値を追う展開を期待できそうです。
年央にかけては金融機関からのレバレッジが高まることで、オーバーシュートすることになれば、年末にかけてボラティリティが上昇することも想定されます。好調な分野は、欧州企業の債権、米国中小企業社債などです。ハイイールド債の平均リターンとしては10%程度を予想します。また、アジア市場の拡大に伴い、現地での社債新規発行が活発になっています。この分野の存在感が増す年になりそうです。

(2)商品市場は、米国シェールガスによる影響が続き、エネルギー価格を抑える展開となるものと想定します。年前半は、各リスク資産が買われる中、商品価格全般的には他資産比出遅れる展開を想定します。
一方、年央以降は、金利上昇とインフレーションの懸念が新興国中心に再燃するものと思われ、その中で年後半にかけては商品価格が再度高騰することもありそうです。商品指数としては、年前半は横ばい、後半にかけて10%程度の上昇を想定します。

(3)金利については、長期を中心に上昇傾向を予想します。政策の不透明性や景気に対する先行き不安から機関投資家を中心に債券保有比率が高まっていた状態からの反動から、年央にかけて先進各国の債券価格が下落する局面が想定されます。
新興国と欧州各国金利と日米金利のスプレッドが縮小するのと同時に、社債スプレッドなども縮小する中、年内は徐々に金利水準が切り上がり、年末にかけてインフレーション懸念が出て来る局面では、変動率の上昇を伴い、金利が30~50bps上昇する可能性もあります。

(4)エマージング市場は、景気の先行き不透明感や、成長鈍化を背景に過去2年間、先進国株式に劣後する局面が見られましたが、2013年前半は、先進国株式市場を大きくアウトパフォームする展開を想定します。一方、年後半にかけて金利上昇とインフレーション懸念が顕在化する状況では、価格調整が起こりやすく、他資産と同様に変動率の高い展開を予想します。最終的には、年間15%のリターンを残すことができると考えています。

(5)市場のボラティリティは2012年に引続き、年前半に落ち着いた展開となった後、年半ば以降に金利上昇(債券価格下落)を契機に上昇する可能性を想定しています。
2008年以降、低レバレッジの状況が続いてきましたが、年央にかけて各市場で再びレバレッジが高まることが、市場のボラティリティを高める要因になると考えています。VIXは年前半まで15~20ポイントを前後した後、年末にかけて25~30に上昇する展開も想定します。

(6)日本株式市場は大きく上昇すると思われます。金融緩和政策で景気浮揚を目指す自民党政権の復活と円安を好感した日本株市場は年末年始にかけて大きく上昇しましたが、このトレンドは当面続くものと思われます。
自民党政権の復活はひとつの要素に過ぎず、実際には複数の要因が絡み合い、国内不動産、株式市場に資金が流れ込んでいるためです。ひとつには、2008年の金融危機の影響が軽微であった日本の金融機関が体力を温存してきたため、ファイナンス余力が大きく、ここにきて不動産案件への融資が伸びています。また、貿易黒字の縮小から恒常的な貿易赤字が見えてきたため、これまでの構造的な円高が転機を迎えています。更に、欧米アジアの投資家の投資余力が戻ってきた中で、著しくアンダーウェイトされていた日本に対する見直し買いが入りやすい状況です。したがって、年前半に15%以上のパフォーマンスを上げるチャンスがあると想定します。しかし、年後半にかけて、金利上昇懸念が現実的になることから、上昇幅のいくらかは消されてしまう可能性もあります。

(7)最後にヘッジファンド業界についてですが、ここ数年で変化の方向性が固まってきたように思えます。世界的に大手機関投資家がヘッジファンド投資を常態化させたことによって、ヘッジファンドの仕組自体がこれまでの伝統的資産運用に非常に近づいています。
例えば、情報開示、運用体制、資産運用規模、運用報酬レベルなどについては、大手機関投資家のスタンダードを満たすために、ヘッジファンド自身が変わらざるを得なかった部分です。また、機関投資家がヘッジファンドの「活用方法」に慣れてきたこともあり、運用戦略のカスタマイズ化も進みました。ヘッジファンドの大型化、伝統的運用資産会社との融合は今後も進みます。今年は、更に伝統的資産の運用とヘッジファンド的な運用手法の融合が進み、旧来型のヘッジファンドの数は減少していくと思われます。

年初も、例年のように国内外の運用者、投資家と話していますが、昨年の今頃とは雰囲気が180度異なっており、つくづく我々人間と言うのは楽天的な生き物だと思わされます。
昨年と異なるのは、各国景気指標に落ち着きが見られ、各国金融機関の大量の金融緩和効果が効いてきた「気」がする、という点と、欧州の債務問題の緊張感が減ったこと、金融市場にレバレッジが戻ってきたことではないかと思います。本質的な先進国の債務問題や中東、欧州、アジア、米国における政治的な問題の解決が進んだとも思えません。好事魔多し、というところまでは来ていないかもしれませんが、こういう時ほど「想定外」の事象に備えた投資が必要になってくると思われます。