酉の市と掛けて、投資の常識と解く。そのこころは。。。

お酉様といえば、この鳥居ですよね

お酉様といえば、この鳥居ですよね

私の住む浅草は、と書き出すと、どうしたって今時期は酉の市の話を持ち出さずにはいられません。しかも、酉の市と言えば片や商売繁盛のお参りごとであるので投資に近い話かといえば、お参りして(大小問わず)熊手を納めては買って、それで屋台でも浅草の街で夜更けまで飲む、程度で終わりかねない、と思うと、三の酉の年は火事が多い、なんてよく言われる話を題材に書こうか、なんて思うと、あれ、どこかで東京消防庁の統計を使って書いたことがなかったか?それは個人的なブログの方か、いや、そういうことはしないなぁ、なんて思い返したら、ちょうど一年前に書いていました(笑)

危ない、アブナイ。被って掲載審査を落ちるところだった(と言いつつも銭湯ネタで被った前科があるのでそうでもないかも。。。)と思い、ちょっと趣向を変えてみようと思います。

以前の記事である意味、この三の酉の年の火事に関する言い伝えについて統計的に否定的な結論を導いたのですが、とはいえこのようなよく言われていること、というのは多くの人がそう言うし、感覚的にもそうじゃないかな、と言うことはなんに気無しに受け入れてしまいがちではないでしょうか。ファンドの世界にもそういう迷信めいたことがあるのです。例えば。。。

オフショアでファンドを作るならケイマン諸島だ!

日本でオフショアにファンドを作るなら、第一の選択肢として挙げられるのはケイマン諸島です。その後にルクセンブルク、アイルランドと続きます。

また、ケイマン諸島の金融当局であるCayman Islands Monetary Authority のホームページトップを見ても、その設定数や受託金額の大きいこと。これを見ても日本を含む世界中の資金がケイマン諸島のファンドを経由して世界中へ投資されていると感じてしまいます

なぜ、オフショアというとケイマン諸島?

拙著のブログで(多少辛めに)解説をしておりますが、ざっくり言えば、設立の柔軟性とスピード感、適度に軽い(必要最低限の)運営上の法規制、業務機能等のそして過去からの設立と運用の実績に基づくノウハウの蓄積に対する安心感(と、日本向け対応があれこれあること)が挙げられる、のです。が、案外世の中で思われていることとして耳にするのが

オフショアファンドは安く設定できる

という迷信です。未だにそう思って見積もりを出すと高い、と勝手に怒り出す人もいます。

確かに15年前ならば日本の人件費はアジア諸国より高く、服から装飾品などを買い物しに行く旅行に行っても良かったので、ケイマン諸島でファンドを設定して、その事務周りを香港やシンガポールでファンド運営すると安上がり、と思われていたのも事実です。

でも、実際はどうか、と言えば、当時からですら言うほどは安くはありませんでした。今もそうですが、設定時の会社設立費用や(当時は微妙に問題視されていた恒久的施設問題を引き起こす、日本の居住者による取締役派遣を避ける為の)現地での(何もしないでサインだけする、とよく言われた)取締役派遣費用、ファンドの契約書の作成費用、実際のファンド運営のためのアドミニストレーターの費用、などなど。これらは日本でやれば自分で(ただで)やるし、日本語だから自分で読めるし、と思いながらも海外だから外部委託せねば、と思った仕事とその費用とされていて、当時からもそれすらなんとか出来ないのか、と法務的、税務的、実務的なリスクを負いながら(もしくは軽視しながら)削ろうとする先人たちが多かったのを思い出します。

2019年はオフショアの変革期の真っ只中

さて、今年。ケイマン諸島だけでなく、バーミューダや英領ヴァージン諸島、(私の第二の祖国?)英王室領ジャージー島やガーンジー島、マン島で導入されたのが、これらの島々で設立された企業やファンドの「Economic Substance : 経済的実在性」の証明義務、です。

2017年にEU主導でEU各国と外部の関連諸国における課税の透明性や公正性、そして BEPS – Base Erosion and Profit Shifting : 税源侵食と利益移転と呼ばれる現地国や国際的税務における合法的な法人税回避を目的とする税務プランニング – 回避のための対応の測定について調査を行われました。この目的は世界中の無税もしくは優遇税制による効果の中和を目指し、結果として海外に流出する課税権をそれぞれの国内に留めたい、というものです。調査結果として、EUに深い関係のある前述のオフショア地域に対して EUはその経済的実在性への問題を提起し、これらの地域の政府もファンドや持ち株会社などの設立・管理業務によるビジネス維持のために、この問題に対する対応を行っていくこととなり、2019年にそれぞれの地域で経済的実在性に関する法制度を施行することとなったのです。

ここで問題となるのが、何をもってそのオフショア地域において「経済的実在性」を持って登記された企業やファンド、組合等が活動をしている、と定義になりますが、それぞれの地域ごとにその定義が異なるのでさらに話をややこしく(他方で、自他共に認める日本で数少ないオフショアオタクにはたまらない話を)しています。ですが、日本のファンド業界から見れば、ケイマン諸島の話、しかもファンドという「器」でしょ?というところが問題なので、そこに絞って話をするならば

  • 投資ファンドは対象外
  • ファンド運用業務はいわゆる「関連事業」としてテストの対象

ということで、投資ファンド単体ではなくスキームの中の関係者、特にファンドの管理・運営をする企業体に対する「経済的実在性」のテストを求められることとなったのです。その企業体の登記上の所在地は当然にケイマン諸島(の弁護士事務所などに間借りした形)で設立されていましたが、それまではケイマン諸島に現地の居住者を入れなくても、またある意味形式的な体制を作ることでファンドの設定や運営が出来たという柔軟性が、現地の経験や資格を持つ人の関与を求める必要が出てくる、などの体制を導入するという結果的に費用が嵩む、と思わず言いたくなる必要性が不可避となったのです。

と言ったところで、よく考えてみると

ファンドの設立国で現地の取締役を任命するって、ルクセンブルクやアイルランドと言ったオンショア諸国や、最近のシンガポールなどのファンド事業を誘致したい国が、その国での経済的実在性が海外投資家の使うファンドに対する免税の条件にする、という話にある意味揃ったようなものなのです。

Economic Substance だけ、じゃなかった2019年

神社のちょうちんは人に見られたいから置くけれども、登記に株主名簿を置いて見られると思うと。。。

今回ほとんど触れませんでしたが、2019年にもう一つケイマン諸島で導入されてちょっと話題になったのが、BO – Beneficiary Ownership regime と言って現時点では金融当局に事業登録などを届出ているような特定の企業体の受益者(株式会社ならばその株主も含みます)となる個人のケイマン諸島の登記所への登録が求められるという法律が施行されたことでした。実際の法律としては2017年に施行されていたので、なんと2023年には全ての事業体に対して登録を義務付ける方向に向かっているというのです。とはいえ、これもEUの第5次マネーロンダリング指令の基本方針に即した、(欧米主導の)世界的な流れに従っていますのでオフショアはこのような世界的要請に追随・対応し、結果的にファンドの設立・運営費用もコンプライアンス体制もオンショアとオフショアをひっくるめた「世界的な標準水準」になんだかんだで収斂するのかもしれません。

まとめ(?)

となると、日本の投資の常識、というのは気をつけないとすぐに取り残された時代遅れになり、法務・税務等の様々なリスクに変質してしまうかもしれませんから、常にアンテナを張って世の中の流れを知り、必要に応じてファンドのスキームの変更が出来るような柔軟性を常にもっていないといけなさそうですね。なんてなかなか難しい話ではあるのですが。。。