白木信一郎の「投資運用苦楽」

第119回 < 香港でのヘッジファンド会議 >

先週は香港、シンガポールへの出張でした。香港では、2日にわたりヘッジファンドの会議が開催され、そこでパネルディスカッションの進行役を行ってきました。世界各国で行われるヘッジファンド会議には、世界中から運用者や投資家が参加し、トピックにしたがって参加者が議論を交わしたり、識者が現在の運用環境や運用に関する内容のスピーチを行うのが常です。年間4-5回、国内外でこのような会議にスピーカー、もしくは進行役として参加することで、最新の運用事情や業界事情に接しておくようにしています。

今回、香港で私が担当したパネルでは、スイスや香港の富裕者を顧客に持つ、プライベートバンク担当者が投資家に対してどのようなヘッジファンド商品を提供し、それが近年どのように変化しているか、という内容を話し合いました。特に、2008年の金融危機や、ヘッジファンド関連の大型詐欺事件として有名になったマードフ事件を経た後、これまで、長期に渡ってヘッジファンドに投資を行ってきた彼らの顧客である富裕者層に、どのような行動の変化がみられるか、というのが会場の興味をそそる内容でした。

第一に、ファンドに投資を行う際に、透明性や流動性を重視しているとのことでした。プライベートバンクとしては、透明性や流動性を確保するために、ヘッジファンド運用口座を投資家が直接管理するマネージドアカウントの採用を検討しています。また、欧州基準の投資信託であるUCITという形態を通じた投資を行う方法が検討されている状況です。しかし、特にマネージドアカウントの管理などには手間がかかるため、現時点では、一部の進んだ顧客がこれらの採用に踏み出しているのみのようです。

第二に、これまで、投資顧問会社やアドバイザーにお任せのファンド・オブ・ファンズへの投資が主流でしたが、一部の経験をつんだ投資家については、個別のヘッジファンドに対する投資を開始しているようです。しかし、世界中に10,000以上あるとされ、情報の開示が非常に限定されている個別のヘッジファンドに対して、金融全般や市場に関する知識、経験が限られている投資家が十分な調査なくして投資を行うのは非常にリスクが高いと思われます。したがって、プライベートバンクは、別途第三者に調査を依頼し、自分たちの内部にファンド調査チームを設立してアドバイスする体制を作り始めています。

第三の現象として、これまで、株式、債券などの伝統的資産とは完全に切り離して、「ヘッジファンド」「オルタナティブ投資」という特別な括りで行ってきた資産配分を、通常の資産配分の一環としてアドバイスするようになってきた、というのも興味深い内容でした。ここ数年、様々な問題点を露呈しながらも、最終的な収益率という点においては、純粋な株式投資などよりも安定的な高収益を達成してきた時期が長いことが認められてきた結果だと思われます。

日本においては、欧米に比べてプライベートバンクのビジネスが根付きにくいといわれているようです。日本では相続税をはじめとする税率が高く、世代間で富の移転が進みにくいため、資産家が、金融資産は海外に所持することや、国内でも実物資産の保有を好むことも一因かもしれません。また、プライベートバンクのサービス自体も歴史の長い欧米に比べて未発達なところがあるのかもしれません。私どもがヘッジファンドやオルタナティブ投資資産を金融商品として、より広範に日本の投資家の皆様にお届けし、欧米のプライベートバンクのサービスの役割の一部を担っていくことをわれわれの目標の一つと据えることを、今回の会議に参加しながら、あらためて考えていました。